2022年12月23日

百歳の狐


唐土(もろこし)にては、百歳の狐、北斗を礼(らい)して美女となり、千歳にして其の尾わかれて、淫婦となれりとかや(百物語評判)、

にある、

百歳の狐、

は、

狐、百歳ニシテ美女ト為リ、神巫ヲ為ス。……千歳ニシテ即チ天ニ通ジ天狐ト為ル(玄中記)、

などによる伝説上の狐で、

つづいて、

宋の王欽若(おうきんじゃく)と云ふ者、其のむまれつきねぢけて、何共心得がたきを以て、九尾狐(きゅうびこ)と名付けし事、『宋史』にみえたり(仝上)、

とあり(高田衛編・校注『江戸怪談集』)、「百歳の狐」が「九尾の狐」となることになる(『玄中記』は、西晋(265~316年)代の編纂)。

九尾狐.jpg

(九尾狐(『山海経』) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E5%B0%BE%E3%81%AE%E7%8B%90より)

「九尾の狐」http://ppnetwork.seesaa.net/article/493610281.htmlは、

天竺では班足(はんそく)太子の塚の神、唐土では周の幽王の后褒姒(ほうじ)、また殷の紂王の妲己(だっき)、日本に渡来して鳥羽院の寵姫玉藻前(たまものまえ)となって、院を悩ました妖狐は九つの尾をもっていたという伝説。那須野で射殺されて殺生石となったとする、

とされる(仝上)。本来「九尾の狐」は、

中国に伝わる伝説上の、

9本の尾をもつキツネの霊獣、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E5%B0%BE%E3%81%AE%E7%8B%90、『山海経』には、

有獸焉、其狀如狐而九尾、其音如嬰兒、能食人、食者不蠱、

とあり、

食べた者は蠱毒(あるいは邪気)を退ける、

と、

霊験として辟邪の要素を付与されており、瑞獣としてあつかわれている、

ようにhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E5%B0%BE%E3%81%AE%E7%8B%90、中国の各王朝の史書では、九尾の狐はその姿が確認されることが、泰平の世や明君のいる代を示す、

瑞獣、

とされ、『周書』や『太平広記』など一部の伝承では天界より遣わされた、

神獣、

とされる(世界大百科事典)。伝説時代から戦国時代の魏の襄王に至るまでを著述した、史記と並ぶ中国の編年体の歴史書『竹書紀年』(ちくしょきねん)には、

夏(か)の伯杼子が東征して〈狐の九尾なる〉を得た、

とあり(仝上)、戦国時代から秦朝・漢代にかけて徐々に付加執筆されて成立した『山海経』(戦国時代から秦朝・漢代(前4世紀~3世紀頃)にかけて付加執筆された地理書)「大荒東経」には、

有青丘之國、有狐而九尾、

とあり、

東方の霊獣、

と考えたらしい。九尾を瑞祥とする考えは、我が国の、「延喜治部省式」祥瑞上瑞に、

九尾狐、神獣也、其形、赤色、或白色、音如嬰児、

とあり、やはり同じ考え方が伝来したものと見ていい。

これが後世、

元の時代の『武王伐紂平話』や明の時代の『春秋列国志伝』などで、殷王朝を傾けたとされる美女・妲己の正体が九尾の狐(九尾狐、九尾狐狸)であるとされている

などhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E5%B0%BE%E3%81%AE%E7%8B%90、九尾狐は、

千年修行すると尾が一本増え、一万年修行をすると黒かった毛が白くなる、

などと妖獣とされていくことになる。

「百歳の狐」は、「玄中記」によると、

狐、五十歲能變化為婦人。百歲為美女。又、為巫神。或、為丈夫、與女人交接。能知千里外事、善蠱魅、使人迷惑失智。千歲即與天通為天狐、

と、

狐は、五十歳にして婦人と為り、百歳にして美女と為り、神巫と為り、丈夫と為り女人と交接し、千里の外の事を知り、人をして智を失わしめ、千歳にして天狐と為る、

という流れは、

神獣→妖獣、

となっていく、

九尾の狐、

の流れと真逆である。

江戸後期の辞書注釈書『箋注和名抄(箋注倭名類聚抄)』には、

狐 考聲切韻云。狐[音胡岐豆禰]。獸名射干也。關中呼爲野干。語訛也。孫面曰。狐能爲妖怪。至百歳化爲女者也、

とありhttp://www.hyakujugo.com/kitsune/kenkyu/kigen02.htm

按。太平御覧引玄中記云。百歳狐爲美女。孫面至百歳化爲女之説。蓋本之、

と注釈している(仝上)。『太平御覧』(たいへいぎょらん)は、北宋代初期(10世紀末)の類書である。そして、『太平御覧』は、

玄中記曰。五十歳之狐。爲淫婦。百歳狐。爲美女。又爲巫神。

と、「玄中記」へと返る。どうやら、「百歳の狐」の伝説は、「玄中記」の説を始まりとするようである。

なお、「野干」http://ppnetwork.seesaa.net/article/485021299.html、「きつね」http://ppnetwork.seesaa.net/article/433049053.htmlについては触れた。

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:33| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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