一念をはげみて、敵の命をとれ。相かまへて忘失せば、不興するぞ(新御伽婢子)、
の、
不興、
は、
勘当、親子の縁を切って追放すること、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
「不興」は、
ふきょう、
あるいは、
ぶきょう、
とも訓ませ、その場合、
あまりに何もかも一つ御事にて、無興なるほどなれば(「愚管抄(1220)」)、
旨酒高会も無興(ブケウ)して、其の日の御遊はさて止みにけり(太平記)、
などと、
無興、
とも表記する(精選版日本国語大辞典)。
不興、
は、文字通り、
不興其藝不能楽學(礼記)、
と、
面白からず、
興味なし、
しらける、
の意である(字源)。で、
不興をかこつ、
という言い方をする。しかし、我が国では、
ふけうしたてまつりて、こもりをりてこひかなしび(「宇津保物語(970~999頃)」)、
と、
機嫌を悪くする、
機嫌が悪い、
また、
立腹、
といった意味で使い(精選版日本国語大辞典)、さらに限定して、
主従三世の契り絶え果て、永く不興と宣へば(大観本謡曲「巴(室町末)」)、
久しく父為義が不興を得て豊後のかたに身を寓(よ)せし(椿説弓張月)、
と、
主君や父母の機嫌をそこね勘気を蒙ること、
勘当を受けること、
の意で使い(仝上・広辞苑)、
不興を買う、
不興をこうむる、
という言い方をする。また、その特殊な使い方として、
あづまやが思はく余り不興(フケウ)ととどむる折から(浄瑠璃「平家女護島(1719)」)、
と、男女関係での、
つれないこと、
無愛想なこと、
かわいがらないこと、
といった意味にも使ったりする(仝上)。
(「興」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%88%88より)
「興」(漢音キョウ、呉音コウ)は、
会意文字。舁は「左右の手+左右の手」で、四本の手で担ぐこと。興は「舁+同」で、四本の手で同じく動かして、一斉に持ち上げおこすことを示す、
とある(漢字源)が、
舁(よ 両手で持ち上げる)と、同(ともにする)とから成る。力を合わせて持ち上げる、「おこす」「おこる」意を表す、
とあるのが分かりやすい(角川新字源)。同趣旨ながら、
会意文字です(舁+同)。「4つの手」の象形(「4つの手で物をあげる」の意味)と「上下2つの筒」の象形(同じ直径のつつが「あう・同じ」の意味)から、力を合わせて物をあげる事を意味し、そこから、「おこす」、「始める」、「よろこぶ」を意味する「興」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji815.html)。
参考文献;
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:不興