2023年01月08日

かぞいろ


つづきて知らぬ位牌あり。「いづれぞ」と問ふに、父母(かぞいろ)の二人也(新御伽婢子)、

にある、

かぞいろ、

は、

かぞいろは、

ともいい、

父母、
両親、

の意で、古くは、

かそいろ(は)、

と、

清音(広辞苑)、

「かぞ」(父)+「いろは」(生母)、

であるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%8B%E3%81%9E%E3%81%84%E3%82%8D%E3%81%AF

父母、

は、

故、天稚彦の、親(チチハハ)、属(うからやから)、妻、子(こ)、皆、謂(おも)はく(神代紀)、

と、

ちちはは、

とも訓み、日葡辞書(1603~04)には、

Chichifaua(チチハワ)、

とあり、

ちちはわ、

とも訓んだ(精選版日本国語大辞典)。上代東国方言では、

等知波波(トチハハ)え斎(いは)ひて待たね筑紫なる水漬(みづ)く白玉取りて来(く)までに(万葉集)、

と、

とちはは、

とも訓ませた(仝上)。また、

近くをだにはなたずててははのかなしくする人なりければ(「大和物語(947~57頃)」)、

と、

ててはは、

とも、「父母(ふぼ)」が訛って、

身躰髪ふは父母(フホ)のたまはれる処也(「百座法談(1110)」)、

と、

ふほ、

とも、

夫母(ブモ)の諫にもかかはらず(「源平盛衰記(14C前)」)、

と、

ぶも、

とも訓ませた(「も」は「母(ボ)」の呉音)。

其(そ)れ父母(カゾイロ)の既に諸子(もろもろのみこたち)に任(ことよせ)たまひて(神代紀)、
かぞいろとやしなひ立てし甲斐もなくいたくも花を雨のうつをと(「信長公記(1598)」)、

と、

「かぞいろ」(古くは「かそいろ」)は、

故其の父母(カソイロハ)二はしらの神(神代紀)、
かぞいろは何に哀と思ふらん三年(みとせ)に成ぬ足立ずして(「太平記(14C後)」)、

と、

「かぞいろは」(古くは「かそいろは」)の、「かぞ」(古くは「かそ」)は、

いろ(生母)の対、

で、

父、

を指し、「いろ」は、

母を同じくする(同腹である)ことを示す語、

で、

同母兄弟(いろせ)、
同母姉妹(いろも)、
同母弟・妹(いろど)、

等々と使う(岩波古語辞典)。

「かぞ」の由来は、

小児に起れる語なるべし、畏(かしこ)の略転か、小児語には、下略して訛れる多し(大言海)、
世次を数えるのは父をもってするところから、数ふる義か(円珠庵雑記)、
数えることを教えるところからか(和訓栞)、
動詞カサヌ(層)の語幹カサと同源(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
カズ(一)の転(言元梯)、
家呂の義で、ロは助語(百草露所引賀茂真淵説)、
家尊の音(類聚名物考)、
カタセコの反(名語記)、

と諸説あるが、はっきりせず、また、

「ちち」との相違も不明、

とある(日本語源大辞典)。なお、「父」については「おやじ」で触れたように、古くは、「父」を、

ち、

と言っており、それに、

父、

と当てるのは、古く、古事記にも、

甘(うま)らに聞こし以ち食(を)せまろが父(ち)(古事記)、

とあり、この場合、「ち」は、父親の意だけではなく、

男性である祖先・親・親方などに対する親愛の称、

で(広辞苑)、

チチ、オヂのチ、祖先、男親の意、

として使われた(岩波古語辞典)。で、

おほぢ(祖父)、
おぢ(「おぼぢ」の転)、
おぢ(小父)

のように他の語の下に付く場合は連濁のため「ぢ」となることがある(デジタル大辞泉)。いずれにしても、

もとは「ち」に父の意があったことは(上記の古事記から)わかる。「ち」はまた「おほぢ」(祖父)「をぢ」(叔父、伯父)の語基である、

とある(日本語源大辞典)ように、「ち」を父親の意味でも使っていたことに変わりはない。では、いつごろから、「ちち」と使っていたのかというと、

労(いた)はしければ玉鉾(たまほこ)の道の隈廻(くまみ)に草手折(たお)り柴(しば)取り敷きて床(とこ)じものうち臥(こ)い伏して思ひつつ嘆き伏せらく国にあらば父(ちち)取り見まし家にあらば母(はは)取り見まし……、

と万葉集にある。「ち」も「ちち」も、ほぼ同時期に使われていたと思われる。ただ、

歴史的には、チ・チチ・テテ・トトの順で現われる、

とある(日本語源大辞典)ので、「ち」が先行していたようであるが、

常に重ねてちちと云ふ、

ともあり(大言海)、

母(おも)、母(はは)との対、

とあるところを見ると、

ちち、

はは、

は対である。こう見ると、古くから「ちち」と「かぞ」とは並行して使われており、どう区別していたのかははっきりしない。

では、「いろ」はどうかというと、「同母(いろ)」で触れたように、

イラ(同母)の母音交替形(郎女(いらつめ)、郎子(いらつこ)のイラ)。母を同じくする(同腹である)ことを示す語。同母兄弟(いろせ)、同母弟(いろど)、同母姉妹(いろも)などと使う。崇神天皇の系統の人名に見えるイリビコ・イリビメのイリも、このイロと関係がある語であろう、

とある(岩波古語辞典)。この「いろ」が、

イロ(色)と同語源(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
色の語源は、血の繋がりがあることを表す「いろ」で、兄を意味する「いろせ」、姉を意味 する「いろね」などの「いろ」である。のちに、男女の交遊や女性の美しさを称える言葉となった。さらに、美しいものの一般的名称となり、その美しさが色鮮やかさとなって、色彩そのものを表すようになった(語源由来辞典)、

と、色彩の「色」とつながるとする説もあるが、

其の兄(いろえ)神櫛皇子は、是讃岐国造の始祖(はじめのおや)なり(書紀)、

と、

血族関係を表わす名詞の上に付いて、母親を同じくすること、母方の血のつながりがあることを表わす。のち、親愛の情を表わすのに用いられるようになった。「いろせ」「いろと」「いろも」「いろね」など、

とあり(精選版日本国語大辞典)、

異腹の関係を表わす「まま」の対語で、「古事記」の用例をみる限り、同母の関係を表わすのに用いられているが、もとは「いりびこ」のイリ、「いらつめ」のイラとグループをなして近縁を表わしたものか。それを、中国の法制的な家族概念に翻訳語としてあてたと考えられる、

とされる(仝上)。

「いろ」の由来は、

イラ(同母)の母音交替形(岩波古語辞典)、
イロ(色)と同語源(続上代特殊仮名音義=森重敏)、

など以外に、

イは、イツクシ、イトシなどのイ。ロは助辞(古事記伝・皇国辞解・国語の語根とその分類=大島正健)、
イロハと同語(東雅・日本民族の起源=岡正雄)、
イヘラ(家等・舎等)の転(万葉考)、
イヘ(家)の転(類聚名物考)、
蒙古語elは、腹・母方の親戚の意を持つが、語形と意味によって注意される(岩波古語辞典)、
「姻」の字音imの省略されたもの(日本語原考=与謝野寛)、

等々あるが、蒙古語el説以外、どれも、「同腹」の意を導き出せていない。といって蒙古語由来というのは、いかがなものか。

イロハと同語、

であり、類聚名義抄(11~12世紀)に、

母、イロハ、俗に云ふハハ、

とある。つまり、

イロは、本来同母、同腹を示す語であったが、後に、単に母の意とみられて、ハハ(母)のハと複合してイロハとつかわれたものであろう(岩波古語辞典)、
ハは、ハハ(母)に同じ、生母(うみのはは)を云ひ、伊呂兄(え)、伊呂兄(せ)、伊呂姉(セ)、伊呂弟(ど)、伊呂妹(も)、同意。同胞(はらから)の兄弟姉妹を云ひしに起これる語なるべし(大言海)

とあるので、「いろ」があっての「いろは」なので、先後が逆であり、結局、

いら、
いり、

とも転訛する「いろ」の語源もはっきりしない。

「父」 漢字.gif

(「父」 https://kakijun.jp/page/0469200.htmlより)


「父」 甲骨文字・殷.png

(「父」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%88%B6より)

「父」(「父の意」の意;慣用ホ、漢音フ、呉音ブ、「年老いた男」の意;慣用ホ、漢音呉音フ)は、

会意文字。父は「おの+又(手)」で、手に石おのを持って打つ姿を示す。斧(フ)の原字。もと拍(うつ)と同系。成人した男性を示すのに、夫(おっと)という字を用いたが、のち、父の字を男の意に当て、細分して、父は「ちち」を、夫は「おとこ、おっと」をあらわすようになった。また甫をあてることもある。覇(ハ おとこの長老)・伯(長老)もこれと同系、

とある(漢字源)が、

おのを持った手を象る象形文字で(ただし普通おのは「斤」と描かれるためこの分析は不自然である)、

ともあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%88%B6。で、

会意。(手)と、丨(おの)とから成る。「斧(フ)」の原字。武器を手に持っているさまにより、一族をとりしまる者、ひいて「ちち」の意を表す、

ともある(角川新字源)が、

象形文字です。「手にムチを持つ」象形から、「一族の統率者、ちち」、「男子の総称」を意味する「父」という漢字が成り立ちました。古来、子供の為にムチや斧を持って獲物を狩りに行く男性の姿から「父」という漢字が生まれました、

とする説もあるhttps://okjiten.jp/kanji27.html

「母」 漢字.gif

(「母」 https://kakijun.jp/page/haha200.htmlより)

「母」は「同母(いろ)」で触れた。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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