一跡
我が一跡を掠め取り、身の佇(たたず)み(置き所)もならず、所さへ追ひ失はれし(新御伽婢子)、
の、
一跡、
は、
財産のすべて、
あひかまへて、小分の(少額の)かけにし給ふな。身代一跡と定めらるべし(仝上)、
の、
身代一跡、
は、
全財産、
と、それぞれ注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
一跡、
の、
跡は、後裔(あと)の義、跡目と云ふ語も、これより出づ、
とある(大言海)ように、
其上大家の一跡、此の時断亡せん事勿体無く候(太平記)、
と、
家筋のつづき、
一系統、
という意味が本来の意で、転じて、
相摸入道の一跡(セキ)をば、内裏の供御料所に置かる(太平記)、
と、
後継ぎに譲る物のすべて、
遺産、
の意となり、転じて、
家一跡は申すに及ばず、女共の身のまはりまで、打ち込(ご)うでござるによって(狂言「子盗人」)、
博奕、傾城狂ひに一跡をほつきあげ(仮名草子「浮世物語(1665頃)」)、
などと、
全財産、
身代、
の意となった(仝上・精選版日本国語大辞典)。その意から、
ねぢぶくさ取出し、一跡(イッセキ)に八九匁あるこまがねの中へ銭壱弐文入れて(浮世草子「傾城色三味線(1701)」)、
と、
全体、
ありったけ、
の意(仝上)となり、視点が讓る側から、譲られる側に転じて、
身が一せきのせりふの裏を食はすしれ者(浄瑠璃「嫗山姥(1712頃)」)、
と、
自分だけが相伝した物、
さらに、
自分の占有、
特有、
独自、
の意に転じていく(仝上)。で、
一跡に、
と使うと、
一跡に一人ある子を、さんざん折檻して(浮世草子「石山寺入相鐘」)、
と、
ありったり、
の意で使う(岩波古語辞典)。
「跡」(漢音セキ、呉音シャク)は、
会意文字。亦は、胸幅の間をおいて、両脇にある下を指す指事文字。腋(エキ)の原字。跡は「足+亦」で、次々と間隔をおいて同じ形のつづく足あと、
とあり(漢字源)、「一跡」の意味に適う当て字になっている。別に、
会意兼形声文字です(足+亦)。「胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味)と「人の両わきに点を加えた文字」(「わき」の意味だが、ここでは、「積み重ねる、あと」の意味)から、「積み重ねられた足あと」を意味する「跡」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1232.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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