2023年02月01日

いらだかの数珠


僧、これを見て、「ぜひ真の姿を顕さずば、いでいて目に物みせん」とて、いらだかの数珠にて叩き給へば(諸国百物語)、

とある、

いらだかの数珠、

は、

玉が角ばっている数珠、木製、揉むと高い音を発する、修験僧の持つ物、

とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。

いらだかの数珠.bmp

(いらだかの数珠 精選版日本国語大辞典より)

いらだかの数珠、

は、

いらたかの数珠、

ともいい、

苛高数珠、

と当て、

山臥大に腹を立て……澳(おき)行く船に立ち向かって、いらたか誦珠(シュス)をさらさらと押揉(おしもみ)て(太平記)、

と、

いらたか誦珠、

とも当て、「数珠」は、

珠数、

とも当て、

念珠(ねんじゅ)、

とも言い、

いらたか念珠、

ともいう。約して、

いらたかずず、
いらたか、

ともいう(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。また、「いらたか」は、

最多角、
伊良太加、
刺高、

などとも表記する(仝上)。

そろばんの玉のように平たく、かどが高くて、粒の大きい玉を連ねた数珠。修験者が用いるもので、もむと高い音がする、

とあり(仝上)、

通常は、数珠をもむときには音をたててはならないとされているが、修験道では悪魔祓いの意味で、読経や祈禱の際に、この数珠を両手で激しく上下にもんで音をたてる、

とある(世界大百科事典)。

「いらたか」は、

角が多い意(仝上)
高くかどばった意(精選版日本国語大辞典)、

とされるが、

もみ摺る音の高く聞こえることに由来する、

とする説(世界大百科事典)もある。しかし、これは後付け解釈ではないか。

「いらだか」は、

苛高、
刺高、

と当て、

いらたか、

とも訓ませる(デジタル大辞泉・岩波古語辞典)。

イラはイラ(刺)と同根、

とある。「いら」で触れたように、「いら」は、

刺(広辞苑・大言海・デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)、
莿(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、

などと当て、

とげ、

の意と、

苛、

と当て、

苛立つ、
いらいら、
いらつく、

等々と使う、

かどのあるさま、
いらいらするたま、
甚だしいさま、

の意とがある(広辞苑)。この「いら(苛)」は、

形容詞、または、その語幹や派生語の上に付いて、角張ったさま、また、はなはだしいさま、

を表わし、

いらくさし、
いらひどい、
いらたか、

等々とつかわれる(精選版日本国語大辞典)とあり、

イラカ(甍)・イラチ・イラナシ・イララゲ(苛)などの語幹、

ともある(岩波古語辞典)ので、

苛、

と当てる「いら」は、

莿、
刺、

とあてる「いら」からきているものと思われる。

「いら」は多くの語を派生し、動詞として「いらつ」「いらだつ」「いらつく」「いららぐ」、形容詞として「いらいらし」「いらなし」、副詞として「いらいら」「いらくら」などがある、

とある(日本語源大辞典)。この「いら」の語源には、

イガと音通(和訓栞)、
イラは刺す義(南方方言史攷=伊波普猷)、
イタ(痛)の転語(言元梯)、

等々の諸説がある。ただ、

刺刺、

と当てる、

いらら、

という言葉がある(大言海)。平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、

木乃伊良良、

とあり、

草木の刺、

の状態を示す「擬態語」と考えると、

いら、

はそれが由来と考えていい。

『字鏡』には、

莿、木芒、伊良、

とある。「芒」(ぼう)は、

のぎ、

で、

穀物の先端、草木のとげ、けさき、

の意である(漢字源)。

どう考えても、「いら」の由来を「揉む音」とするのは無理筋ではあるまいか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:55| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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