右の手に水晶の珠数をつまぐり、左の手に法花経の五の巻を持ち、すでに広庭に出でられければ(諸国百物語)、
にある
法花経五の巻、
は、
法華経巻五は、「提婆達多品(だいばだったぼん)」。竜王の娘が、その徳行のゆえに菩提をとげる話が載り、女人成仏を説く条として古来有名、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
「五の巻」は、
第五の巻(だいごのまき)、
五巻(ごのまき)、
とも表記し、この巻には、
悪逆な提婆達多(だいばだった)の成仏の予言や八歳の龍女が成仏することを説いて、法華経の広大な功徳を讚える提婆品、
が収められ(精選版日本国語大辞典)、この「提婆品(だいばぼん)」は、
悪人成仏、
女人成仏、
の根拠となる(岩波古語辞典)ので、
わづかに請じ寄せ給し法師してもよみ講せさせ給し提婆品、最勝王経、ここにして日々にかの御ためによません(宇津保物語970~999頃)」)、
などと、
特に重視され、法華八講などには第五巻を講ずる日は、
五巻日(ごかんのひ)、
といって薪行道(たきぎのぎょうどう)が行なわれる(精選版日本国語大辞典)とある。この日は、
法華八講では3日目、
三十講では13日目、
にあたり、悪人成仏、女人成仏を説く提婆品(だいばぼん)が講説され、特別な供養が行われる(デジタル大辞泉)。「法華八講」は、
法華経八巻を八座に分けて、一日を朝・夕の二座に分け、一度に一巻ずつ修し、四日間で講じる法会、
で(仝上)、起源は中国だが、日本では延暦一五年(796)年に奈良の石淵寺の勤操が4日間『法華経』を講義したのを最初とされる(ブリタニカ国際大百科事典)。さらに、
開経(導入)の無量義経、結経(補足)の観普賢経(かんふげんきよう)を加えて10座とした講讃が、
法華十講、
法華経28品に開結2経を加えて30日間に講ずる講讃が、
法華三十講、
となる(世界大百科事典)。「提婆品(だいばぼん・だいばほん)」は、
提婆達多品(だいばだったぼん)の略、
法華経二十八品中の第十二品。「妙法蓮華経」巻五の最初の品名。提婆達多や龍女の成仏を説くことにより、法華経の中でも功徳の勝れた一章として重視されている、
とある(仝上)。この、
提婆達多(だいばだった)、
は、
原名デーバダッタDevadattaの音写語、
で、略して、
提婆(だいば)、
また、
調達(じょうだつ)、
あるいは、
天授(てんじゅ)、
と訳す。ゴータマ・ブッダ(釈迦)と同時代の仏教の異端者。で、ブッダの従兄弟(いとこ)または義兄弟といわれ、出家してブッダの弟子となったが、のちブッダに反逆し、仏教教団の分裂を図った。マガダ国のアジャータシャトル(阿闍世 あじゃせ)王子を唆し、父王を殺させて王位につかせ、自らはブッダを殺害しようとしたが失敗し、やがて悶死(もんし)した、
とされ(日本大百科全書)仏典では、
生きながら地獄におちた極悪人、
とされるが、仏教から分立した禁欲主義的な宗教運動の組織者でもある(精選版日本国語大辞典)。
(『妙法蓮華経』(鳩摩羅什訳 春日版)「序品第一」 日本大百科全書より)
法華経は、サンスクリット原典は、
サッダルマ・プンダリーカ・スートラSaddharmapundarīka-sūtra、
といい、
妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)の略称、
だが、原題は、
「サッ」(sad)は「正しい」「不思議な」「優れた」、「ダルマ」(dharma)は「法」、「プンダリーカ」(puṇḍarīka)は「清浄な白い蓮華」、「スートラ」(sūtra)は「たて糸:経」の意、
で(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%8F%AF%E7%B5%8C)、
白蓮華のごとき正しい教え、
の意となる(世界大百科事典)。
この漢訳は、
竺法護(じくほうご)訳『正(しょう)法華経』10巻(286)、
鳩摩羅什(くまらじゅう)訳『妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)』7巻(406)、
闍那崛多(じゃなくった)他訳『添品(てんぼん)妙法蓮華経』7巻(601)、
三種が存在する。『妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)』が最も有名で、通常は同訳をさす。詩や譬喩・象徴を主とした文学的な表現で、一乗の立場を明らかにし、永遠の仏を説く(日本大百科全書)とある。
ただ、現行の『妙法蓮華経』は「提婆達多品(だいばだったぼん)」を加えているが、羅什訳原本にも他書にもなく、それを除くと、すべてのテキストが27章からなる(仝上)とある。
(鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』如来寿量品第十六・自我偈 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%8F%AF%E7%B5%8Cより)
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