その子、母を弁才天にいはひ(斎)しより、その後はしづまりたると也(諸国百物語)、
の、
弁才天、
は、
弁財天女、
で、
民間では、水神、音楽神であるとともに、嫉妬する女神としての信仰があった、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
(弁財天 大辞林より)
「弁(辯)才」は、
梵語Sarasvat(薩囉薩伐底・薩羅婆縛底 サラサバティ)の訳語、
で(大言海・日本国語大辞典)、
天竺(インド)の神の名、
で、
聖河の化身、
といい(仝上)、のち、
学問・芸術の守護神、
となり、吉祥天とともにインドで最も尊崇された女神とされる(広辞苑)。仏教にはいって、
舌・財・福・智慧・延寿、
などを与え、
音楽・弁才・財福などをつかさどる女神、
とされ、
妙音天、
美音天、
ともいい(仝上・広辞苑)、
大弁才天、
弁天、
ともいう(仝上)その像は、
八臂(弓・箭・刀・・斧・杵・輪・羂索を持つ)、
また、鎌倉時代には、
二臂(二手で琵琶を持つ)、
の女神像が一般化するが、『金光明最勝王経』大弁財天女品によると、
頭上に白蛇をのせ、鳥居をつけた宝冠をかぶった八臂の女神で、持物は弓、箭、刀、さく、斧、長杵、鉄輪、羂索(けんじゃく)、
で、密教に入って、
二臂で琵琶を持った姿で胎蔵界曼荼羅外金剛部院、
にある(ブリタニカ国際大百科事典)。
(羂索 精選版日本国語大辞典より)
因みに、「羂索(けんじゃく)」は、
「羂」は「わな」の意、
の意で、
仏菩薩の、衆生を救い取る働きを象徴するもの、
とされ、色糸を撚(よ)り合わせた索の一端に鐶、他の一端に独鈷(どっこ)の半形をつけたもので、密教で用いる。不動明王、不空羂索観音、千手観音などがこれを持つ、
とある(精選版日本国語大辞典)。
後世、弁才天は、
吉祥天、
と混同され、また穀物の神である、
宇賀神、
とも同一視されて(仝上)、室町時代末期には、
福徳賦与の神、
つまり、
財福(福徳や財宝)を授ける女神とも考えて、
弁財、
の字を当て、
七福神の一、
に数えた(岩波古語辞典・日本国語大辞典)。「七福神」については触れた。
弁才(財)天女、
ともいう(仝上)。古来、
安芸の宮島、
大和の天の川、
近江の竹生島、
相模の江ノ島、
陸前の金華山、
を五弁天と称す(広辞苑)らしい。
天女の姿の弁財天、
というのは、江戸時代になり、七福神が信仰されるようになって認識されるようになったが、この天女姿の弁財天のルーツは、元々、七福神の女神が、
弁財天、
ではなく、
吉祥天(きちじょうてん)
だったため、天女姿をしていた吉祥天からきたもの(https://www.s-bunsan.jp/choeiza/column/column2021-1)らしい。時代が進むにつれ、うまく日本の神様と習合して日本人に受け入れられた弁財天に対し、吉祥天信仰は徐々に薄れ、弁財天が代わりに七福神に入れられようである。その際に、吉祥天と同じ天女姿をした弁財天となったとみられている(仝上)。
(吉祥天 広辞苑より)
因みに、吉祥天(きちじょうてん・きっしょうてん)も、
バラモン教の女神で、のちに仏教に入った天女。顔かたちが美しく、衆生に福徳を与えるという女神、
であり、日本では金光明最勝王経会や吉祥悔過会の主尊としてまつられた例が多く、像容はふつう、
宝冠、天衣をつけ、右手を施無畏印、左手に如意宝珠をのせ、後世も美貌の女神、
として親しまれ、
奈良薬師寺の画像、
東大寺法華堂の塑像、
京都浄瑠璃寺の木像、
が名高い。
吉祥功徳、
吉祥天女、
吉祥女、
吉祥神、
等々とも呼ばれる(日本国語大辞典)。
なお、梵語Sarasvat(サラスバティー)という古代インドの女神は、元来、
水を湛(たた)える、
を意味する女性名詞にかかる形容詞であるが、固有名詞となって西北インドの、
インダス川の東方を流れていたサラスバティー川(現在のものとは別と考えられる)が女神として神格化されたもの、
となり(日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典)、インド最古の聖典『リグ・ベーダ』では、河川神の中で最も有力な地位を占め(世界大百科事典)、
豊穣(ほうじょう)、生産、富、浄化の力をもつ、
とされ、後代には、
学問、技芸の神、雄弁と知恵の保護神、
として高い地位を与えられた(仝上)。これが、仏教に取りいれられて、弁才天となった。
「サラスバティー」は、
ヴィーナ、
と呼ばれる琵琶に似た弦楽器を持っており、
サラスバティー河の流れる川のせせらぎ、
から、
流れるもの、
を連想する、
音楽や言葉などの才能をもたらす神、
とされた(https://www.s-bunsan.jp/choeiza/column/column2021-1)とある。弁才天の琵琶につながる。
(弁才天坐像(宇賀弁才天) 竹生島・宝厳寺 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%81%E6%89%8D%E5%A4%A9より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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