神前の灯明にて、紙燭をして、二階へあがりてみれば(諸国百物語)、
の、
紙燭、
は、
紙を撚(よ)って、それに火をつけて闇中のあかしにすること、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
紙燭、
は、
脂燭、
とも当て、
ししょく、
とも訓ますが、
シソク、
は、
(シショクの)ショクの直音化、
である(岩波古語辞典)。和名類聚抄(平安中期)に、
紙燭、族音、之曾玖、
とあるので、
シショク→シソク、
と転訛したことになる。
宮中などで夜間の儀式・行幸などの折に用いた照明具、
で(広辞苑)、
室内用のたいまつともいうべきもの、
とあり(岩波古語辞典)、
陰(ひそか)に湯津爪櫛(ゆつつまぐし)を取りて、其の雄柱を牽き折(か)きて秉炬(タヒ)として(日本書紀)、
の、
手火(たひ)の一種、
である(日本大百科全書)。
(紙燭 広辞苑より)
松の細き材の、一尺五寸(45センチ)許なるが、端を焦し、油を塗りて、被を點(とぼ)す、樹を青紙にて巻く(大言海)、
松根や赤松を長さ約1尺5寸、太さ径約3分(9ミリ)の棒状に削り、先の方を炭火であぶって黒く焦がし、その上に油を塗って点火するもの。下を紙屋紙(こうやがみ)で左巻にした(広辞苑)、
ものだが、また、
紙縷(こより)に油を漬して點すもの(大言海)、
布や紙を撚(よ)り合わせて蝋(ろう)や油、あるいは松脂(まつやに)などを塗り込んでつくったもの(日本大百科全書)、
もあり、
スギの芯、マツの小枝、
なども使われた(仝上)とある。一般に使われたものに、
小灯、
小点、
と当てる、
コトボシ、
というものがある(仝上)。後の形態だと、
手燭(てしょく)、
や
小提灯(こぢょうちん)、
などがそれにあたる(精選版日本国語大辞典)が、
マツの「ヒデ」(マツの根の脂味(あぶらみ)の部分)を30~40センチメートルの手ごろな長さに切り、大人の親指ほどの細さに引き割って、その先端に火を点じ、
夜間室内の灯火に使った(仝上)とある。
なお、紙燭に火をともすことを、
さす、
という(学研全訳古語辞典)とある。
つとめて、蔵人所のかうやがみひき重ねて(枕草子)、
と、
紙屋紙(こうやがみ)、
というのは、
「かみやがみ(紙屋紙)」の変化した語、
で、
うるはしきかむやかみ、陸奥紙(みちのくにがみ)などのふくだめるに(源氏物語)、
ただうちの見参とて、かひやがみにかきたるふみの、ひごとにまいらするばかりを(今鏡)、
つとめて蔵人所のかや紙引かさねて(能因本枕)、
と、訛って、
かんやがみ(紙屋紙)、
かいやがみ(紙屋紙)、
かやがみ(紙屋紙)、
などともいう。元来は、
奈良時代・平安初期まで、朝廷の紙屋院(かみやいん)で製した官庁用紙、
をいうが、平安時代には、
京都の紙屋院で造られた反故(ほご)紙を漉(す)き返した紙、
をいう。字を書いた故紙(こし)を漉き返したので薄墨色をしており、
薄墨紙(うすずみがみ)、
ともいわれ、特に綸旨(りんじ)はこの紙を用いて書かれることになっていたので、
綸旨紙、
ともいい、
宿紙(すくし・しゅくし)、
水雲紙(すいうんし)、
還魂紙(かんこんし)、
ともいう(精選版日本国語大辞典)。
なお、
紙燭が一、二寸(約三〜六センチ)燃える短い間に作る歌、
また、
それを作る競技、
に、
紙燭の歌(うた)、
というのがある(仝上)。
(紙燭 大辞林より)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95