2023年02月17日

紙燭


神前の灯明にて、紙燭をして、二階へあがりてみれば(諸国百物語)、

の、

紙燭、

は、

紙を撚(よ)って、それに火をつけて闇中のあかしにすること、

とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。

紙燭、

は、

脂燭、

とも当て、

ししょく、

とも訓ますが、

シソク、

は、

(シショクの)ショクの直音化、

である(岩波古語辞典)。和名類聚抄(平安中期)に、

紙燭、族音、之曾玖、

とあるので、

シショク→シソク、

と転訛したことになる。

宮中などで夜間の儀式・行幸などの折に用いた照明具、

で(広辞苑)、

室内用のたいまつともいうべきもの、

とあり(岩波古語辞典)、

陰(ひそか)に湯津爪櫛(ゆつつまぐし)を取りて、其の雄柱を牽き折(か)きて秉炬(タヒ)として(日本書紀)、

の、

手火(たひ)の一種、

である(日本大百科全書)。

紙燭.jpg

(紙燭 広辞苑より)

松の細き材の、一尺五寸(45センチ)許なるが、端を焦し、油を塗りて、被を點(とぼ)す、樹を青紙にて巻く(大言海)、
松根や赤松を長さ約1尺5寸、太さ径約3分(9ミリ)の棒状に削り、先の方を炭火であぶって黒く焦がし、その上に油を塗って点火するもの。下を紙屋紙(こうやがみ)で左巻にした(広辞苑)、

ものだが、また、

紙縷(こより)に油を漬して點すもの(大言海)、
布や紙を撚(よ)り合わせて蝋(ろう)や油、あるいは松脂(まつやに)などを塗り込んでつくったもの(日本大百科全書)、

もあり、

スギの芯、マツの小枝、

なども使われた(仝上)とある。一般に使われたものに、

小灯、
小点、

と当てる、

コトボシ、

というものがある(仝上)。後の形態だと、

手燭(てしょく)、

小提灯(こぢょうちん)、

などがそれにあたる(精選版日本国語大辞典)が、

マツの「ヒデ」(マツの根の脂味(あぶらみ)の部分)を30~40センチメートルの手ごろな長さに切り、大人の親指ほどの細さに引き割って、その先端に火を点じ、

夜間室内の灯火に使った(仝上)とある。

なお、紙燭に火をともすことを、

さす、

という(学研全訳古語辞典)とある。

つとめて、蔵人所のかうやがみひき重ねて(枕草子)、

と、

紙屋紙(こうやがみ)、

というのは、

「かみやがみ(紙屋紙)」の変化した語、

で、

うるはしきかむやかみ、陸奥紙(みちのくにがみ)などのふくだめるに(源氏物語)、
ただうちの見参とて、かひやがみにかきたるふみの、ひごとにまいらするばかりを(今鏡)、
つとめて蔵人所のかや紙引かさねて(能因本枕)、

と、訛って、

かんやがみ(紙屋紙)、
かいやがみ(紙屋紙)、
かやがみ(紙屋紙)、

などともいう。元来は、

奈良時代・平安初期まで、朝廷の紙屋院(かみやいん)で製した官庁用紙、

をいうが、平安時代には、

京都の紙屋院で造られた反故(ほご)紙を漉(す)き返した紙、

をいう。字を書いた故紙(こし)を漉き返したので薄墨色をしており、

薄墨紙(うすずみがみ)、

ともいわれ、特に綸旨(りんじ)はこの紙を用いて書かれることになっていたので、

綸旨紙、

ともいい、

宿紙(すくし・しゅくし)、
水雲紙(すいうんし)、
還魂紙(かんこんし)、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。

なお、

紙燭が一、二寸(約三〜六センチ)燃える短い間に作る歌、

また、

それを作る競技、

に、

紙燭の歌(うた)、

というのがある(仝上)。

紙燭2.bmp

(紙燭 大辞林より)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:50| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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