風流


大和國宇太の郡漆部(ぬりべ)の里に風流な女がいた。漆部造麿(みやつこまろ)の妻であった(霊異記)、

の、

風流、

は、ここでは、

世俗の名利に無関心で、いつも身を浄らかに持つ清浄高邁な行為をさしている、

とある(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)。

風流(ふうりゅう)は、古くは、

ふりゅう、

とも訓んだ(大辞林)が、「風流」は、漢語で、

士女沾教化、黔首仰風流、自中興以來、功臣将相、継世而隆(後漢書・王暢傳)、

と、

先王の遺風餘流、
なごり、

の意や、

天下言風流者、以王樂為稱(晉書・樂廣傳)、

風雅、

の意でも使う(字源)。「風流」は、

風聲品流の略、

とあり(大言海)、

風聲品流能擅一世、謂之風流也(剪燈新話(せんとうしんわ 明代の怪異小説集)牡丹燈記)、

とするが、前後が逆で、古くは、

中国では、最も古くは先王の美風のなごりの意であったらしいが、やがて、俗ではない品格とか優美な魅力の意で使われた、

とあり(岩波古語辞典)、日本でも、室町時代編纂のいろは引きの国語辞典『運歩色葉集(うんぽいろはしゅう)』は、

風流、フウリュウ、遺風余風之義也、

とあり、風姿花伝では、

新しきを賞する中にも、またく風流を邪(よこしま)にする事なかれ、

と、遺風の意で使っている。しかし、早く万葉集以来、平安期でも、

風流、

を、

ミサヲ、
ミヤビヤカ、

と訓ませる(岩波古語辞典)など、

ここに前(さき)の采女あり、風流びたる娘子(おとめ)なり。左手に觴を捧げ、右手に水を持ち(万葉集)、
雖風流如野宰相、軽情如在納言、而皆以他才聞(古今集・漢序)、

と、

粗野・平凡ではない人品の良さ、風雅な情趣を解すること、

の意で使い、さらに、

その様例の車に似たりといへども、……風流詞を以て云ふべきにあらず(御堂関白日記)、
こがね・しろがねなど心を尽して、いかなることをがなと風流をしいでて(大鏡)、

と、

芸術的な衣装を凝らすことなどの意に転じていく。江戸後期の三都(京都・大阪・江戸)の風俗、事物を説明した類書(百科事典)『守貞謾稿』には、

夫男女ノ風姿タル、風流美麗ハ古今人ノ欲スル所ナリ、而カモ古人ハ、善美ニシテ流行ニ合ヒ、意匠ノ精シクシテ野卑ニ非ザル、乃チ之ヲ風流ト云フ、

とある。特に、

ふりゅう、

と訓む場合、室町時代の意義分類体の辞書『下學集』に、

風流、フウリュウ・フリュウ、風情義也、日本俗呼拍子物曰風流、

とあるように、平安時代末期以降、

みやびやかな、

の意が由来(広辞苑)らしいが、

御堂の庭に桟敷を打つて舞台をしき、種々の風流を尽さんとす(太平記)、

と、
和歌や物語を意匠化した作り物、

をさすようになり、

拍子物(はやしもの)を伴い、華麗な行粧・仮装をこらしてする祭礼、また、その拍子物、

をいい、後には、

趣向を凝らした祭礼の傘鉾、山車(だし)、

さらに、

それを取り巻いて踊ること、

をも称するようになる(岩波古語辞典)。「風流」(ふりゅう)は、だから、当初の、

祭礼の行列などで、服装や笠に施す華美な装飾、

の意から、

風情ある造り物、

を意味し(学研全訳古語辞典)、転じて、室町末期には、

造り物で飾った笠(カサ)・鉾(ホコ)などや仮装した者を中心に、囃し物を伴って群舞した集団的歌舞、

をいうようになった(広辞苑・日本国語大辞典)。

風流.bmp

(風流 精選版日本国語大辞典より)

風流踊(ふりゅうおどり)、
風流傘(ふりゅうがさ 趣向をこらし種々飾りたてた長柄の傘。祭礼の行列などに用いた)、
風流車(ふりゅうぐるま 種々の装飾を施した車。賀茂祭などの祭礼の行列に加わる)、

等々といった言葉がある(仝上)。そうした、

群舞、

は、

念仏踊・太鼓踊・獅子踊・小歌踊・盆踊・奴踊・練物、

などにもつながり(仝上)、

浮立、

とも当て(仝上)、現在も広く行われている。そうした流れの一つに、

寺院で、法会のあと僧侶・稚児たちが行った遊宴の歌舞、

である

延年舞、

がある(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。

延年舞.bmp

(延年舞 精選版日本国語大辞典より)

平安中期に起こり、鎌倉、室町時代に盛んに行なわれ、

比叡山の延暦寺、奈良の東大寺・興福寺その他の大寺で、大法会(だいほうえ)のあとの遊宴の席で、余興として演じられた、

もので、伴奏楽器は、

銅鈸子(どうばっし 金属製シンバル)、
鼓、

などで、

大風流、
小風流、

の別がある(仝上)という。能楽にもとり入れられ、特別な場合に、

式三番(翁)に付加して行う演目、

で、狂言方が担当するので、

狂言風流、

ともいう(仝上)とある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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