花を売る女人は、花を供養した功徳によって忉利(とうり)天に生まれることができ(霊異記)、
とある、
忉利天、
は、
梵語、多羅夜登陵舎(トラーヤストリンシャ Trāyastriſśa)の音写、
で、また、
怛利耶怛利奢、
に作り、
三十三天、
と漢訳する(大言海・デジタル大辞泉)。唐代の『慧苑音義』(慧苑・撰述 22年)には、
忉利、訛言、正云怛利耶怛利奢、言怛利耶者此云三也、怛利舎十三也、謂須弥山頂、四方各有八天城、當中有一天城、帝釈所居、総数有三十三處、
とある。つまり、原意は、
三十三、
つまり、
三十三種の天(または天神)からなる世界、
を意味するので、
三十三天、
と意訳された(日本大百科全書)。
「非想非々想天」、「三界」で触れたように、「三界」の、
欲界、
色界、
無色界、
の諸天のうち、
無色界(むしきかい)、
は、
色身、すなわち肉身を離れ、物質の束縛を離脱した心のはたらきだけからなる世界、
で、
無色天(むしきてん)、
ともいい、
空無辺処(くうむへんしょ 無量空処 第一天。物質的存在がまったく無い空間の無限性についての三昧の境地)、
識無辺処(しきむへんしょ 第二天。認識作用の無辺性についての三昧の境地)、
無処有処(むしょうしょ 第三天。いかなるものもそこに存在しない三昧の境地)、
非想非非想処(ひそうひひそうしょ 第四天。三界の中で最上の場所である無色界の最高天)、
の四天からなり、その下の、
色界、
は、
浄らかな物質からなる世界で、四禅を修めたものの生まれる天界で、性欲・食欲・睡眠欲の三欲を離れた生きものの住む清らかな領域、
をいい、
絶妙な物質(色)よりなる世界なので色界の名があり、
四禅天、
に大別される。「四禅天」(しぜんてん)は、
禅定の四段階、
その領域、とその神々をいい、
初禅天、
には、梵衆・梵輔・大梵の三天、
第二禅天、
には、少光・無量光・光音の三天、
第三禅天、
には、少浄・無量浄・遍浄の三天、
第四禅天、
には、無雲・福生・広果・無想・無煩・無熱・善見・善現・色究竟の九天、
合わせて十八天がある、とされる(「四禅」はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E7%A6%85に詳しい)。いわゆる、
有頂天、
については、
色界(しきかい)の中で最も高い天である色究竟天(しきくきょうてん)、
とする説と、
色界の上にある無色界の中で、最上天である非想非非想天(ひそうひひそうてん)
とする説の二説がある(広辞苑)ことは、「非想非々想天」で触れた。
色界の下にある、欲望の強い有情(うじょう)の住する境界、
欲界、
の、
六欲天、
は、上から、
他化自在天(たけじざいてん) 欲界の最高位。六欲天の第6天、天魔波旬の住処、
化楽天(けらくてん、楽変化天=らくへんげてん) 六欲天の第5天。この天に住む者は、自己の対境(五境)を変化して娯楽の境とする、
兜率天(とそつてん、覩史多天=としたてん) 六欲天の第4天。須弥山の頂上、12由旬の処にある。菩薩がいる場所、
夜摩天(やまてん、焔摩天=えんまてん) 六欲天の第3天。時に随って快楽を受くる世界、
忉利天(とうりてん、三十三天=さんじゅうさんてん) 六欲天の第2天。須弥山の頂上、閻浮提の上、8万由旬の処にある。帝釈天のいる場所、
四大王衆天(しだいおうしゅてん) 六欲天の第1天。持国天・増長天・広目天・多聞天の四天王がいる場所、
となる(精選版日本国語大辞典・http://yuusen.g1.xrea.com/index_272.html他)。
忉利天、
は、
欲界の六天のうちの第二、
須弥山(しゅみせん)の頂上にあり、
帝釈天、
が住むとされる(「須弥山」については触れた)。
中央の、
喜見城(きけんじょう 善見城(ぜんけんじょう)、喜見、喜見宮とも)
の、
殊勝殿(しゅしょうでん)、
に三十三天の首領である帝釈(たいしゃく)天が住み、四方の峰に八天があるので、
三十三天、
ともいう(広辞苑・デジタル大辞泉・日本大百科全書)。『慧苑音義』には、
この天、須弥山の頂に在り、四方に各八天の住処あり中央の善見城を加ふるゆゑに三十三天となる、帝釈天王の居所である、
に続いて、
往昔迦葉仏入滅の時一女人あり発心して塔を修す、また三十二人ありてこれを助修す、この功徳によりて女人は忉利天王に転生し、其助修者は皆輔臣となつたと、三十三天ある所以である、
とある(仏教辞)。ちなみに、三十三天は、中央の、
喜見城(きけんじょう)天(善見城天)、
のほか、
善法堂天(ぜんぽうどう 善見城の南西に善法堂があり、ここに天人が定期的に集まり会議を開く)、
山峯天(さんぽうてん 北東の外側にある)、
山頂天(さんちょうてん 北西の外側にある)、
鉢私地天(はっしちてん 北西にある)、
倶吒天(くたてん 北東にある)、
雑殿天(ぞうでんてん 北西の外側にある)、
歓喜園天(かんぎえんてん 北方にある。ここには善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ歓喜園と如意池がある。ここへ入ると自然に歓喜の心が生じるとされる。「かんぎおん」とも)、
光明天(こうみょうてん 北東の外側にある)、
波利耶多天(はりやたてん 北東の外側にある)、
離険岸天(りけんがんてん 東にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ衆車園と如意池がある)、
谷崖岸天(こくがいがんてん 東にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ衆車園と如意池がある)、
摩尼蔵天(まにぞうてん 北東の外側にある)、
旋行天(せんぎょうてん 北東にある)、
金殿天(こんでんてん 北東の外側にある)、
鬘影天(まんえいてん 南東にある)、
柔軟天(じゅうなんてん 南東の外側にある)、
雑荘厳天(ぞうしょうごんてん南東の外側にある)、
如意天(にょいてん 南東にある)、
微細行天(びさいぎょうてん 南東の外側にある)、
歌音喜楽天(かおんきらくてん 南の外側にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ粗悪園(悪口園)と如意池がある)、
威徳輪天(いとくりんてん 南西の外側にある)、
月行天(げっこうてん 南西にある)、
閻摩那娑羅天(えんまやさらてん 南西の外側にある)、
速行天(そっこうてん 南西の外側にある)、
影照天(えいしょうてん 西の外側にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ雑林園と如意池がある)、
智慧行天(ちえぎょうてん 西の外側にある)、
衆分天(しゅうぶんてん 西の外側にある)、
曼陀羅天(まんだらてん 北西にある)、
上行天(じょうぎょうてん 北西にある)、
威徳顔天(いとくがんてん 北西の外側にある)、
威徳燄輪光天(いとくえんりんこうてん 北西にある)、
清浄天(しょうじょうてん 北西の外側にある)、
とある(https://jiincenter.net/toriten-33ten/)。
この天は、
楼閣(ろうかく)、苑林(おんりん)、香樹(こうじゅ)、
に満ちた楽園であり、欲界に属し、性の交わりの享受があり(日本大百科全書)。釈迦の母は死後ここに生まれ、釈迦は生後7日目に死別した母マーヤー夫人に法を説くために祇園精舎から忉利天へ昇天し、ここで3ヶ月間、母マーヤー夫人に法を説いた後、三道の宝階を降下してサンカーシャの地に現れたとされる(三道宝階降下伝説)。この天人の寿命は、人間の 100年を一日一夜としたときの 1000年であるという(https://jiincenter.net/sankassa/・ブリタニカ国際大百科事典・世界大百科事典)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:忉利天(とうりてん) 三十三天