脇士(きょうじ)


本堂の東側の脇士(きょうじ)の観音像の首が、理由もないのに切れて落ちた(霊異記)、

の、

脇士、

は、

仏の左右に侍る菩薩を脇士という、

とある(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)。「三尊」で触れたように、

中央に立つ尊像を、

中尊(ちゅうそん)、

左右に従っているのを、

脇士、

というが、

挟み侍る、

意で(大言海)

夾、挟、俠、相通ず、

とある(仝上)。つまり、

仏の左右に侍して衆生(しゅじょう)教化を助けるもの、

の意(広辞苑)で、

脇侍、
夾侍、
挟侍、

とも当て、

脇士、
脇侍、

を、

わきじ、

とも訓ませ(大辞泉)、

脇立(わきだち)、

ともいう(広辞苑)。「脇侍」の、訓読みが、

わきだち、

で、

脇士、

は、

脇侍大士の意、

で、菩薩を、

大士、

という(仝上)とある。確かに、三尊は、

阿弥陀三尊は、阿弥陀如来と観音、勢至の二菩薩、
釈迦三尊は、釈迦如来と文殊、普賢の二菩薩(梵天と帝釈天、薬王菩薩と薬上菩薩、金剛手菩薩と蓮華手菩薩の例も)、
薬師三尊は、薬師如来と日光の二菩薩、
弥勒三尊は、弥勒如来と法苑林菩薩、大妙相菩薩の二菩薩、
盧舎那三尊は、盧舎那仏と如意輪観音、虚空蔵菩薩の二菩薩(薬師如来と千手観音菩薩)、

など脇士は菩薩が主流だが、菩薩とは限らず、

不動三尊は、中尊は不動明王と矜羯羅童子(こんがらどうじ)、制吒迦童子(せいたかどうじ)、
観音菩薩三尊は、観音菩薩(十一面観音、千手観音など)と毘沙門天、不動明王、

という場合もあるので、

中尊をはさんで左右に侍する菩薩または比丘などのこと(日本国語大辞典)、

というのが正確かもしれない。

釈迦三尊.jpg

(釈迦三尊像(法隆寺金堂 寺伝では脇侍は薬王菩薩・薬上菩薩と称している) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%88%E8%BF%A6%E4%B8%89%E5%B0%8Aより)

「脇士」については、観無量寿経では、

阿弥陀如来ではその左辺に観音菩薩、右辺に勢至菩薩を配すること、

陀羅尼集経では、

釈迦如来では目連は左に侍し、阿難は右に在りと説かれ、釈迦画像ではその下の左辺に文殊騎獅像、右辺に普賢騎象像を画作せよ、

と説いている(世界大百科事典)。ただ、たとえば、阿弥陀三尊は、

阿弥陀如来と観音、勢至の二菩薩、

だが、脇侍を、観音菩薩を文殊菩薩に置き換えることはない。

阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩は、死後無事に浄土へたどり着けるよう導く「あの世担当」であるのに対し、文殊菩薩は仏道に沿った生き方をするための智慧を授ける「この世担当」だから、

と、それぞれが持っている仏教的な役割から、置き換え不可の者もあるhttps://goto-man.com/faq/post-10487/

「脇士」の多くは、

二尊で、中尊と合わせて、

三尊像、

だが、仏像には、

四尊、
八尊、
十二尊、

それ以上数十尊に及ぶこともある(世界大百科事典)。四尊像というと、

多聞天、持国天、増長天、広目天、

の四天王像があるが、牛伏寺(松本市)四尊像は、鎌倉時代のもので、4体の姿を田の字型に配置し、

向かって右上が孔雀明王像、その下が愛染明王像、その左が不動明王像、その上が尊勝仏頂像、

とあるhttps://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/134/3823.html。五尊像は、

大日如来、阿閦如来(あしゅくにょらい)、宝生如来(ほうしょうにょらい)、阿弥陀如来(あみだにょらい)、不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)、

の五智如来、

不動明王、降三世明王(こうざんぜみょうおう)、軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)、大威徳明王(だいいとくみょうおう)、金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)、

の五大明王がありhttps://goto-man.com/faq/post-10487/

獅子に乗った文殊菩薩の周囲に優填王、善財童子、大聖老人(最勝老人)、仏陀波利三蔵(中国語: 佛陀波利)の4侍者、

の文殊菩薩五尊、

があるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%87%E4%BE%8Dが、五尊懸仏(奈良国立博物館)では、

中尊が施無畏(せむい)・与願(よがん)の印を示す釈迦如来(しゃかにょらい)、以下右上から時計回りに十一面観音(じゅういちめんかんのん)、定印(じょういん)の阿弥陀如来(あみだにょらい)、僧形(そうぎょう)の地蔵菩薩(じぞうぼさつ)、胸前に経巻を持する文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、

という組み合わせであるhttps://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/149157)。

八尊像は、

天、竜、夜叉(やしゃ)、乾闥婆(けんだつば)、阿修羅(あしゅら)、迦楼羅(かるら)、緊那羅(きんなら)、摩睺羅迦(まごらが)、

の八部衆(釈迦如来の眷属)がある(仝上)。十二尊像では、

宮毘羅(くびら)、伐折羅(ばさら)、迷企羅(めきら)、安底羅(あんてら)、安底羅(あんにら)、珊底羅(さんてら)、因達(陀)羅(いんだら)、波夷羅(はいら)、摩虎羅(まこら)、真達羅(しんだら)、招杜羅(しゃとら)、毘羯羅(びから)、

の十二神将(薬師如来の眷属)がある(仝上)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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