五趣


我、身を受くること唯五尺余有りとは、五尺とは五趣の因果なり(霊異記)、

の、

五趣、

については、

五趣とは、地獄・餓鬼・畜生・人間・天上のこと、ここは前世で五趣をへめぐっている間になした行為が因となって、この世で五尺の身を受けたことをいう、

と注記がある(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)。

五趣、

は、

五悪趣(ごあくしゅ)の略、

五悪趣、

は、

五悪道、
五道、
五種、

ともいい、

衆生(しゅじょう)が善悪の業因(ごういん)によって趣く五つの生存の状態または世界。

つまり、

地獄、餓鬼、畜生、人間、天上

をいう(広辞苑・日本国語大辞典)。

五道神識、盡能得知彼善悪趣(菩提處胎経)、

とある。

六道、

のうち、

修羅道、

を除いた五つの世界をいうので、

五道、

という(デジタル大辞泉)。「六道」は、「六道四生」で触れたように、

欲望が支配する欲界の衆生が輪廻する六種の世界(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天)、

をいい、「欲界」は、「摩醯修羅(まけいしゅら)」で触れたように、仏教における、

欲界、
色界、
無色界、

の三つの世界(三界)のうち最下の層は欲界で、欲望にとらわれた生物のすむ領域、

であり(「三界」については触れた)、欲界には、「天魔波旬」で触れた、六種の天が、上から、

他化自在天(たけじざいてん) 欲界の最高位。六欲天の第6天、天魔波旬の住処、
化楽天(けらくてん、楽変化天=らくへんげてん) 六欲天の第5天。この天に住む者は、自己の対境(五境)を変化して娯楽の境とする、
兜率天(とそつてん、覩史多天=としたてん) 六欲天の第4天。須弥山の頂上、12由旬の処にある。菩薩がいる場所、
夜摩天(やまてん、焔摩天=えんまてん) 六欲天の第3天。時に随って快楽を受くる世界、
忉利天(とうりてん、三十三天=さんじゅうさんてん) 六欲天の第2天。須弥山の頂上、閻浮提の上、8万由旬の処にある。帝釈天のいる場所、
四大王衆天(しだいおうしゅてん) 六欲天の第1天。持国天・増長天・広目天・多聞天の四天王がいる場所、

とある(http://yuusen.g1.xrea.com/index_272.html他)。そして、「六道」(ろくどう・りくどう)は、「六道の辻」で触れたように、

天道(てんどう、天上道、天界道とも) 天人が住まう世界である。
人間道(にんげんどう) 人間が住む世界である。唯一自力で仏教に出会え、解脱し仏になりうる世界、
修羅道(しゅらどう) 阿修羅の住まう世界である。修羅は終始戦い、争うとされる、
畜生道(ちくしょうどう) 畜生の世界である。自力で仏の教えを得ることの出来ない、救いの少ない世界、
餓鬼道(がきどう) 餓鬼の世界である。食べ物を口に入れようとすると火となってしまい餓えと渇きに悩まされる、
地獄道(じごくどう) 罪を償わせるための世界である、

を指し、このうち、

天道、人間道、修羅道を三善趣(三善道)、

といい、

畜生道、餓鬼道、地獄道を三悪趣(三悪道)、

という(大言海)らしい。この六つの世界のいずれかに、

死後その人の生前の業(ごふ)に従って赴き住まねばならない、

のである(岩波古語辞典)。

「六道」は、

梵語ṣaḍ-gati(gatiは「行くこと」「道」が原意)、

の漢訳で、

六つの迷える状態、

の意https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AD%E9%81%93

五趣生死輪図.jpg


紙本着色の「五趣生死輪図」(妙楽寺)がある。

2本の角をもつ無常大鬼が腹前に五趣生死を描いた大きな輪を抱き、上部には虚空に浮かぶ丸い円が白色でシンボリックに描かれ、「涅槃円浄」と記されている、

とありhttps://www.city.kawasaki.jp/880/page/0000000472.html

「五趣生死の輪は、中心に小円を表わし、外輪と小円のあいだは五等分して、右上から順に天・畜生・地獄・餓鬼・人間の各界(すなわち五趣)を、小円中には定印坐像の一仏を配し、その周辺に鳩・蛇・猪を描いて、それぞれ多貧・多瞋・多癡と註記する。また、輪環をもつ無常大鬼の回りにも葬送の人々や、舟を漕ぐ人物など12因縁を中心に18種の図柄を表わす。」

とある(仝上)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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