大白牛車(だいびゃくごしゃ)


白米を捧げて乞食に献じるとは、大白牛車(だいびゃくぎっしゃ)を得を得むが為に、願を発し、仏を造り大乗経典を写し、真心をもって善因を行うことである(霊異記)、

にある、

大白牛車、

は、

法華経の譬喩品(ひゆほん)にある故事。大きな白い牛が引く、宝物で飾ってある車のことで、仏道の喩えとして出している、

とある(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)。

大白牛車、

は、普通、

だいびゃくごしゃ、

と訓ませ、

牛の車、

ともいう(広辞苑)。

大きな白牛の引く車、

の意で、

法華経譬喩品の、

如下彼長者初以三車誘引諸子。然後但与大車宝物荘厳安隠第一。然彼長者、無中虚妄之咎上

から出た、

某長者の邸宅に火災があつたが、小児等は遊戯に興じて出ないので、長者はために門外に羊鹿牛の三車あつて汝等を待つとすかし小児等を火宅から救ひ出したといふ比喩で、羊車はこれを声聞乗に、鹿車はこれを縁覚乗に、牛車はこれを菩薩乗に喩へた、この三車には互に優劣の差のないではないが、共にこれ三界の火宅に彷復ふ衆生を涅槃の楽都に導くの法なので、斯く車に喩へたもの、

で(仏教辞林)、

火宅にたとえた三界の苦から衆生を救うものとして、声聞・縁覚・菩薩の三乗を羊・鹿・牛の三車に、一仏乗を大白牛車(だいびゃくごしゃ)にたとえた、

三車一車、

によるもので、

すべての人が成仏できるという一乗・仏乗のたとえに用いられる、

とある(仝上)。法相宗では、

羊・鹿・牛の三車、

の一つとして声聞乗の羊車、縁覚乗の鹿車に対して菩薩乗にたとえたとするが、天台宗では、全

羊車(ようしゃ)・鹿車(ろくしゃ)・牛車(ごしゃ)の三つ(三車)に、大白牛車(だいびゃくごしゃ)を加えたもの、

を、

四車(ししゃ)、

とし、この説が一般にもちいられている(精選版日本国語大辞典)とある。

三界は安きこと無しなお火宅の如し、

と、

迷いと苦しみに満ちた世界を、火に包まれた家にたとえた、

三界火宅、

のたとえ、

は、

「あるところに大金持ちがいました。ずいぶん年をとっていましたが、財産は限りなくあり、使用人もたくさんいて、全部で百名ぐらいの人と暮らしていました。主人が住んでいる邸宅はとても大きく立派でしたが、門は一つしかなく、とても古くて、いまにも壊れそうな状態でした。ある時、この邸宅が火事になり、火の回りが早く、あっという間に火に包まれてしまいました。主人は自分の子どもたちを助けようと捜しました。すると、子供たちは火事に気付かないのか、無邪気に邸宅の中で遊んでいます。この邸宅から外に出るように声をかけますが、子どもたちは火事の経験がないため火の恐ろしさを知らないのか、言うことを聞きません。そこで主人は以前から子供たちが欲しがっていた、おもちゃを思い出します。羊が引く車、鹿が引く車、牛が引く車です。主人は子どもたちに『おまえたちが欲しがっていた車が門の外に並んでいるぞ!早く外に出てこい!』と叫びます。それを聞いた子どもたちが喜び勇んで外に出てくると、主人は三つの車ではなく、別に用意した大きな白い牛が引く豪華な車(大白牛車)を子どもたちに与えました。」

という話https://www.tendai.or.jp/houwashuu/kiji.php?nid=103で、これは、

主人が仏で、子どもがわれわれ衆生、邸宅の中(三界)に居る子どもは火事が間近にせまっていても、目の前の遊びに夢中で(煩悩に覆われて)そのことに気付きません。また、主人である父(仏)の言葉(仏法)に耳を傾けることをしません。そこで、主人は子どもに三車(声聞乗・縁覚乗・菩薩乗の三乗の教え)を用意して外につれ出し助け、大きな白い牛が引く豪華な車(一乗の教え)を与えた、

というもので、

われわれ衆生をまず、三乗の教えで仮に外に連れ出し、そこから更に、これら三乗の教えを捨てて一乗の教えに導こうとする仏の働き(方便)を譬え話に織り込んで、説いている、

と解釈されている(仝上)。三車は、

羊鹿牛車(ようろくごしゃ)、
みつのくるま、

などともいう(仝上)。

因みに、法華経には、

仏は衆生の能力に応じていろいろな教法を説くが、目的は、仏の悟りに導くため、および仏の法身 (永遠不変の真実の相) は不滅かつ普遍であることを示す、

ためであり、

三界火宅の喩え(譬喩品)、

のほかに、

長者窮子(ぐうじ)の喩え(「窮子」については触れた)、
三草二木の喩え、
化城宝所の喩え(化城喩品)、
衣裏(えり)繋珠(けいじゅ)の喩え(五百弟子受記品)、
髻中(けいちゅう)明珠(みょうじゅ)の喩え(安楽行品)、
良医病子の喩え(寿量品)、

の七つの喩え、

法華七喩(ほっけしちゆ)、

が説かれている(http://www.hokkeshu.jp/hokkeshu/2_07.html・ブリタニカ国際大百科事典)。それぞれの概略はhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%8F%AF%E4%B8%83%E5%96%A9に譲る。

白い蓮の花.jpg

(法華経の梵語(サンスクリット)の原題は『サッダルマ・プンダリーカ・スートラ』、逐語訳は「正しい・法・白蓮・経」で、意味は「白蓮華のように最も優れた正しい教え」である https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%8F%AF%E7%B5%8Cより)

なお、法華経については、「法華経五の巻」で触れたことがある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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