恪勤
其の時一の人の御許に恪勤(かくごん)になむ候ひける(今昔物語)、
とある、
恪勤(かくごん)、
は、
侍、家人、
とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
「恪勤」は、
かっきん、
かくご、
などとも訓ませ、「ごん」は、
「勤」の呉音、
で(精選版日本国語大辞典)、
かくご、
は、
カクゴンの転、
で(岩波古語辞典)、
「かくごん」の撥音「ん」の無表記、
とある(大辞林・大辞泉)。
恪勤、
は、漢語で、
カッキン、
と発音、
朝夕恪勤、守以淳徳、奉以忠信(國語)、
とあるように、
つつしみてつとめる、
意であり、本来、
然纔行一二、不能悉行、良由諸司怠慢不存恪勤、遂使名宛員数空廃政事(続日本紀)
と、
任務に忠実なこ、
怠ることなく勤めること、
つまり、
精勤、
の意であり(精選版日本国語大辞典)、
かくごん、
かくご、
かっきん、
などと訓ませた(仝上・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%AA%E5%8B%A4)。この、
任務や職務などをまじめに勤めること、
が、
令制では、官人の勤務評定の際、最も重要な項目の一つとされた、
ためか、平安時代、
凡称侍者、親王大臣以下恪勤之名也(職原抄)、
とあるように、
小一条院の御みやたちの御めのとのおとこにて、院の恪勤してさぶらひ給、いとかしこし(大鏡)、
と、
院、親王家、摂関家、大臣家、門跡などに仕えて宿直や雑役を勤仕する侍、
また、
その侍として仕えること、
の意に転じ(精選版日本国語大辞典・世界大百科事典)、
恪勤者(かくごしゃ)、
ともいわれ、
かくごん、
とも、
かくご、
とも訛った(精選版日本国語大辞典・広辞苑・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%AA%E5%8B%A4)。さらに、武家でも、鎌倉幕府の職制が公家を模したためこの役も設置され、室町幕府にも受けつがれ、
権門高家の武士共、いつしか、諸庭奉行人と成り、或は軽軒香車の後(しりへ)に走り、或は青侍(せいし)挌勤(カクコ)の前に跪(ひざま)づく(太平記)、
と、
侍所に属して、宿直や行列の先走りなど、幕府内部の雑役に従事した小役、
で、のちに、
御末衆(おすえしゅう)、
と呼ばれ(仝上)、
恪勤侍(かくごのさむらい)、
などともいい(仝上・日本国語大辞典)、
かくごん、
かくご、
と訓ませた(仝上・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%AA%E5%8B%A4)。同じ御所に仕える侍の中でも、将軍に近侍して警衛にあたった上級武士は、
番衆、
と呼ばれ、雑役にあたる下級の侍を、
恪勤、
と呼んだ(世界大百科事典)。
「恪」(カク)は、
会意兼形声。各(カク)は「口(かたいもの)+夊(あし)」の会意文字で、足がかたい物につかえて止まること、恪は「心+音符各」で、心がかたくかどばってつかえること、
とあり(漢字源)、「恪勤(カッキン)」の、つつしむ、堅苦しい意である。
「勤(勤)」(漢音キン、呉音ゴン)は、
会意兼形声。堇(キン)は、「廿(動物の頭)+火+土」の会意文字で、燃やした動物の頭骨のように熱気で乾いた土のこと。水気を出し尽して、こなごなになる意を含む。勤は、それを音符とし力を加えた字で、細かい所まで力を出し尽して余力がないこと。それから、こまめに働く意をあらわす、
とある(漢字源)。別に、
会意形声。「力」+音符「堇」。「堇」は「革」を下から火で炙り乾かす様、「乾」や「艱」と同系。余力がなくなるまで力を出し尽くして働く、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8B%A4)、
会意兼形声文字です(菫+力)。「腰に玉を帯びた人(腰に帯びた玉の色から黄色の意味)と土地の神を祭る為に柱状に固めた土」の象形(「黄色の粘土」の意味)と「力強い腕」の象形から、力を込めて粘土をねりこむ事を意味し、そこから、「つとめる」を意味する「勤」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1021.html)ある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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