2023年04月10日

除目の大間


公(おほやけ)の御政をよきも悪しきもよく知りて、除目(じもく)あらむずる時には、先づ國のあまた開きたるを(今昔物語)、

の、

除目(じもく)、

とは、普通、

「除」は官に任命する、「目」は目録にしるす(日本国語大辞典)、
官に除し、目録に記す意(大言海)、
「除」は旧官を除去して新官につくの意。「目」は目録に記すこと(旺文社日本史事典)、
除は旧官を除いて新官に就任するの意、目は新官に就任する人名を書き連ねた目録の意(世界大百科事典)、

などとあるが、

「除」は宮中の階段、階段を昇る意から、官を拝すること。「目」は書、任間の書の意(岩波古語辞典)、

意ともある。確かに、「除」には、「きだはし(階段)」の意があるが、敍(叙)と同義とある(字源)ので、「新たに官に拝する」、つまり「新官に就く」意になる。前者でいいのではないか。また、

除書(じょしょ)、

ともいう。本来は、

任官、

といい、官職任命の政務をいい、

官に任ずることを除(じょ)といい、もとの官を去って新しい官につく、

意となる(日本大百科全書)。

除目(じょもく)、

は、

拝官曰除、除書曰除目(品字箋)、

と漢語で、

官に任じたる報告書、

の意で、

除書(じょしょ)、

ともいう(字源)が、我が国では、「除目」「除書」ともに、

任官の行事、

つまり、

大臣以外の臣の官位を進級せしむる公事、

をいった(仝上)。いわば、

諸司・諸国の主典(さかん)以上の官を任ずる儀式、

で、

公卿(くぎょう)が集まって約三日間清涼殿の天皇の前で行い、摂政の時はその直廬(ちょくろ 休息・宿泊・私的な会合などに用いる個室)で行うのを例とする、

とある(広辞苑)。律令官職制度では、在京諸官司の官人を、

内官(ないかん)または京官、

地方在勤のものを、

外官(げかん)、

また武器を携帯しないものを、

文官、

携帯するものを、

武官、

とし、文官の人事は式部省、武官の人事は兵部省でつかさどり、いずれも欠員が生じたときは、直ちに後任者を補任するたてまえであった(世界大百科事典)。

除目は、

定例春秋二回、

で、春は、正月十一日より十三日まで、諸國司を召して、外官(国司などの地方官)を任命するので、

県召(あがためし)の除目、

といい、第一夜は、

四所籍(ししょのしゃく)といって内豎所(ないじゅどころ)などに勤める下級の職員の年労(勤続年数)の多い者や、年給(ねんきゅう 天皇、院、宮、公卿などに毎年給せられる推挙権)による申請者を諸国の掾(じょう)、目(さかん)に任ずることから始めて、上位の任官に進め、

第二夜には、

外記(げき)、史、式部、民部の丞(じょう)、左右衛門尉(じょう)など重要な官司の実務官を任ずる顕官挙(けんかんのきょ)なども行われ、

第三夜では、

受領(ずりょう)や公卿の任官に及ぶ、

とある(日本大百科全書)。

秋は、大臣以外の京官を任命する(元は三月三日前に行うべきを、後に秋となった)ので、

司召(つかさめし)の除目、

といい、

一夜が原則であった、

とある(日本大百科全書)。

春秋除目のほか、

臨時除目(小(こ)除目)、
女官除目、
坊官除目、
一分召除目、

なども行われた(日本国語大辞典)。なお、大臣は、別に、

大臣召(だいじんめし)、

という儀式で天皇の宣命(せんみょう)によって任ぜられ、除目では任官されない(日本大百科全書)。

除目の作法は先例尊重の非常に繁雑なもので、公家(くげ)政治が実質を失っても朝廷の儀式として近世まで存続した(仝上)という。その煩瑣な儀式の次第は大江匡房(おおえのまさふさ)の『江家次第(ごうけしだい)』が特に詳しい(仝上)とある。

人皆聞きて、所望叶ひたりける人は、除目の後朝(ごてう)には、この大君のもとに行きてなむほめける(今昔物語)、

の、

除目の後朝、

とは、

春のあがためし(地方官任命)の最後の日の朝、

つまり、三日三晩行われる除目のあけた、

四日目の朝、

を指している(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

無下に故なくは読み給はじと、心にくく思ひて、除目の大間(おほま)、殿上にひらきたるやうに、皆人押しひらひて見騒ぐに(今昔物語)、

の、

大間、

とは、

大間書(おほまがき)の略、

で、

除目(じもく)に用いる文書、

つまり、

任官の対象となる闕官(けっかん 欠員)の職名の官職の名称とその候補者を列記した名簿のこと、

で、

原紙を作成のために欠員の官職名を列記する際に予め候補者の位階氏姓名を記入する(入眼 じゅがん)を行うための空白(間)が大きく開けられていたことから、

大間書、

もしくは、

大間、

と呼ばれたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%96%93%E6%9B%B8

除目に先立って外記(げき 律令制において朝廷組織の最高機関・太政官に属した職の一つである。四等官の中の主典(さかん)に相当する)が原紙を作成し、神祇官・太政官から八省及びその被官、弾正台・京職・鋳銭使・諸国国司及び大宰府(五畿七道順)・衛府・馬寮・兵庫寮・鎮守府までの欠員の官職(四等官及び品官)が一覧として記される。除目の銓擬(せんぎ)によって人事が決定された後に執筆(しゅひつ)を担当する大臣が空白部分に候補者の位階氏姓名及び年給などの注記を記入する入眼を行って大間書の最後に日付を書き加えて天皇の奏覧を受ける。その後、別に任じられた清書(きよがき)の上卿が白か黄色の紙に清書を行った、

とある(仝上・世界大百科事典)。

大臣置笏取大間、開之繰置座右(江家次第・除目・大間書)、

とあるように、「大間」は、

と多くは巻物になっており、除目のとき、天皇の前で執筆の大臣がこれを繰り、任ずべき人々の名前を読み上げて順次書き加え、終るとその奥に月日を記入、

夜前大間文等入櫃云云申文、大間書乍筥被置御円座前(後二条師通記(寛治五年(1091)正月二七日)、

と、

天皇の奏覧を経て、これを清書し上卿(しょうけい) に渡した、

とある(ブリタニカ国際大百科事典)。なお、

大間書は天皇の奏覧を受ける前に除目に参加した他の公卿の確認を行うことや、清書の終わった大間書は執筆した大臣が持ち帰ることが許されていた、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%96%93%E6%9B%B8

「年給」とは、

年料給分の略、

で、律令財政の苦しくなった平安初期に、経済生活が窮乏してきた皇族のために考案された、皇室の、

売官・売位制度、

で、皇族・貴族に官職・位階の推薦権を与え、推薦者が被推薦者から報酬を取る。売官を、

年官、

売位を、

年爵(ねんしゃく)、

といった。毎年、叙位、除目のとき、

天皇以下公卿以上はその身分に従って、一定の官位に一定の人員を申請する権利をもった。叙位、任官希望者はその申請権をもつ者に、叙料、任料を差出して官位を得る、

というものである(ブリタニカ国際大百科事典・マイペディア)。給主の地位に従って内給(天皇)・院宮給・親王給・公卿給・典侍給などの別がある(仝上)。

毎年所定の官職に所定の人数を申任する権利を与えて収入を得させるのが、

年官、

であり、

所定の人数の叙爵を申請する権利を与えて収入を得させるのが、

年爵、

で、給主は、

官や爵(位)を望む者を募り、申請して叙任し、そのかわりに任料、叙料を徴収して個人の得分とする。このように年給は、官や爵を一種の持ち株として個人に給(たま)わったものであるから、官職位階が公然と利権視され、政治の乱れを激しくした(世界大百科事典)とされる。

「除」 漢字.gif

(「除」 https://kakijun.jp/page/1084200.htmlより)


「除」 説文解字・漢.png

(「除」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%99%A4より)

「除」(漢音チョ、呉音ジョ、慣用ジ)は、

会意兼形声。余(ヨ)は「スコップ+八印(左右に開く)」の会意文字で、スコップやこてで土や雪を左右に押しのけることを示す。除は「阜(土盛り)+音符余」で、じゃまになる土を押しのけること。押しのばす意を含む、

とある(漢字源)。別に、

会意形声。「阜」+音符「余」。「余」は農具で土をかき分ける様。土をかき分けて除く、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%99%A4

形声。阜と、音符余(ヨ→チヨ)とから成る。建物の階段の意を表す。転じて「のぞく」意に用いる、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(阝+余)。「段のついた土山」の象形(「段のある高地」の意味)と「先の鋭い除草具」の象形(「伸びる、のぞく」の意味)から、「祭壇に伸びる階段」、「のぞく」を意味する「除」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji990.html。漢字では、

現在の官職を取り去るのを「開除」、
簡易を授けるのを「除授」、
任官することを「除官」、

という(漢字源・字源)とある。

なお、「目」(漢音ボク、呉音モク)は、「尻目」で触れた。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:36| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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