2023年04月14日

左券


今のうちに一通り堺目を立てて、他日の左券とするのである(柳田國男『口承文芸史考』)、

にある、

左券、

は、

左契、

に同義で、

左験、

ともいう(字源)。

契(ケイ)も、券(ケン)も、割符なり、

とある(大言海)が、

昔、木の札に約束事を書き、手の印形を押した。それを二つに割って、甲乙がその片方はずつを保存し、照らし合わせて証拠とするものを符(わりふ)といい、紐で巻いて保存するものを、「券」という、

ともある(漢字源)。ともかく、

二分した割符(わりふ)の半片、

をいい(広辞苑)、

契約を二枚の札に書し、之を分かち、一を左契とし、一を右契とす、他日引合わせて証拠とす、

とあり(字源)、

自分の手許に留めておく方、

左契、

といい、相手に渡す方を、

右契、

とする(広辞苑)、

とあり(仝上)、転じて、

約束の証拠、

の意で使う(仝上)。出典は、

和大怨必有餘怨(大怨(たいえん)を和するも必ず余怨(よえん)あり)
安可以爲善(安(な)んぞ以って善と為(な)すべけんや)
是以聖人(是(ここ)を以って聖人は)
執左契左契(左契(さけい)を執(と)りて)
而不責於人(人に責めず)
有徳司契(徳有るものは契(けい)を司(つかさど)り)
無徳司徹(徳無きものは徹(てつ 取り立てること)を司る)
天道無親(天道は親(しん)無く)
常與善人(常に善人に与(くみ)す)(老子)

の、

左契、

からきている。

「左契」は「契」すなわち手形として用いる割符の左半分。証文を木札に書き、二つに割って左の半分を債権者、右の半分を債務者がもつ、

とある(福永光司訳注『老子』)。『礼記』曲禮に、

粟(ぞく)を獻ずる者は右契を執る、

とあり、『史記』田敬仲完世家に、

公常執左券、以責于秦韓、此其善於公、而惡張子多資矣、

ともある(仝上・字源・大言海)。

有徳司契(徳有るものは契(けい)を司(つかさど)り)
無徳司徹(徳無きものは徹を司る)

は、

俚言的な成語、

らしく(福永光司訳注『老子』)、

農民の収穫を現物で取り立てる「徹(てつ)の税法」、

と、

現物を離れて信用で取引する「契(けい)の税法」、

を対比している(仝上)。

粟(ぞく)を獻ずる者は右契を執る、

という『礼記』の記述は、その意味であろうか。

不責於人

とは、

相手(債務者)に厳しく督促しない、

意で

いつかは返済してもらい、長い目で見れば埋め合わせがつくことに信頼する、

意とあり(仝上)、

天道無親
常與善人

の、

天の理法の悠久な裁きに対する信頼と対応する、

とある(仝上)。

「券」 漢字.gif

(「券」 https://kakijun.jp/page/0821200.htmlより)

「券」(漢音ケン、呉音コン)は、

会意兼形声。原字は「釆(開いたてのひら)+両手」の会意文字で、拳(指をまいてにぎる)の原字でもある。券は、それに刀を加えたもので、開いた手をにぎることをあらわし、ひもで巻いて保存する手形。手形の文句を、小刀で木札に刻んだので、刀を加えた、

とある(漢字源)。別に、

形声。刀と、音符𢍏(クヱ 𠔉は変わった形)とから成る。むかし、二つの木片に刻み目をつけ、刻み目が合うことを契約の証拠とした。割り符、ひいて、証拠書類の意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です。「種を散りまく象形と両手の象形」(「まく」の意味)と「刀」の象形から、刃物で木片にきざみ目をつけ約束したものを2つに割って両者がそれぞれひもで巻いて後日の証拠とする「割符(わりふ)」、「手形」を意味する「券」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji846.html

「契」 漢字.gif


(「契」 https://kakijun.jp/page/0934200.htmlより)

「契」 漢字.gif


「契(契)」(漢音ケイ・ケツ・セツ、呉音ケ・ケチ・セチ)は、

会意。上部は棒(丨)に彡印の刻み目をつけたさまに刀を加えた字で、刃で刻み目をいれること。契は、もとそれに大(大の字に立つ人の姿)を合わせて、商の始祖セツをあらわしたが、のち上部の字のかわりに用いた、

とある(漢字源)が、「ちぎる」「約束」「割符」の意味の場合、「契拠」というように「ケイ・ケ」と訓み、「きざむ」という意の場合、「ケツ・ケチ」と訓み、商の始祖の場合、「セツ・セチ」と訓む(仝上)。

別に、

会意兼形声文字です(丰+刀+大)。「刻み付ける」象形と「刀」の象形と「両手両足を伸びやかにした人」の象形から、人の肌や骨に符号に刻み付ける事を意味し、そこから、「きざむ」、「ちぎる(約束する)」、「しるし」を意味する「契」という漢字が成り立ちました、

とあるhttps://okjiten.jp/kanji1638.html

なお、「左」については「そうなし」で触れた。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
福永光司訳注『老子』(朝日文庫)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:左券 左契 左験 割符
posted by Toshi at 03:39| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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