2023年04月25日

貝をつくる


足摺りをして、いみじげなる顔に貝を作りて泣きければ(今昔物語)、

の、

貝を作る、

は、

口をへの字にする、べそをかく、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

口を貝の形にする意(岩波古語辞典)、
泣き出す時の口つきが、ハマグリの形に似ているところから(精選版日本国語大辞典)、

とあり、

口をへの字に曲げて、泣きだす、

意で、

子供や僧について言うことが多い、

とある(仝上)。

たまご」で触れたように、「たまご」の古語は

かひ、

あるいは、

かひこ、

あるいは

かひご、

で(大言海・岩波古語辞典)、「かひこ」は、

卵子(大言海)、

殻子・卵(岩波古語辞典)、

とあて、「かひ」は、

卵、

で(仝上)、「かひ」は、

カヒ(貝)と同根、

とあり(岩波古語辞典)、

カヒは殻の意(岩波古語辞典)、
殻(カヒ)あるものの意(大言海)、

と、「たまご」の殻からきおり、

殻、

は、

かひ、

と訓ませ、「貝」は、

殻(かひ)あるものの義、

とある(大言海)。つまり「かひ」は、

貝、
とも
殻、
とも、
卵、
とも、

当て(岩波古語辞典)、「殻」は、

(卵・貝などの)外殻、

の意である(仝上)。和名類聚抄(平安中期)には、

殻、和名与貝(かひ)、同、虫之皮甲也
貝、加比、水物也、

とあり、類聚名義抄(11~12世紀)には、

稃(フ もみがら)、イネノカヒ、

とある。つまり、漢字がない時は、すべても

かひ、

で、漢字によって、

貝、
卵、
殻、

と当て分けたもので、「たまご」の「かひ」は、「殻」から名づけられ、

かひ(殻・貝)の子、

の意味になる(日本語源大辞典)が、

貝と同根、

とされる、「貝(かひ)」の語源は、「殻」に絡ませている、

カヒ(殻)あるところから(箋注和名抄・和訓栞・大言海)、
アラアヒ(殻合)の略(和訓栞・日本語原学=林甕臣)、
殻を背負って歩くところからカラハヒ(柄這)、又はカライリ(柄入)、又はカラユキの反(名語記)、
カはカラ(殻)の下略、イは家の意、又「介」の音が「貝」の訓となる(日本釈名)、
カライヘ(柄舎)から(柴門和語類集)、

などという諸説の他に、

アヒ(合)の義(名言通)、
カヒ(甲)の義(言元梯)、
殻の古代語「介」(ヨロイの中に入ったもの、二枚貝)の義(日本語源広辞典)、
交イ換イから。物々交換に貝を使ったから(日本語源広辞典)、
古く物と交換したところから、カヘ(替)の義(関秘録)、
カは、カシ(炊)の原語、ヒは容器を意味するヘの転(日本古語大辞典=松岡静雄)、
数個取り集める時、カフカフ、カヒカヒと音がするところから(国語溯原=大矢徹)、
「鳥の羽交」「目(ま)な交ひ」などの「交ひ」から(暮らしのことば語源辞典)、

等々の諸説がある。普通に考えると、「殻」「卵」「貝」ともに、

殻(かひ)あるものの義、

とする(大言海)

カヒ(殻)、

からきたとするのが、妥当なのではないか。

「貝」 漢字.gif


「貝」 甲骨文字・殷.png

(「貝」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%B2%9Dより)

「貝」(慣用バイ、呉音・漢音ハイ)は、

象形。われめのある子安貝、または二枚貝を描いたもの、

とあり(漢字源)、

象形。子安貝(インド洋に産するたから貝)のからの形にかたどり、子安貝、ひいて「かい」の意を表す。古代には、子安貝のかいがらが貨幣の役目をしたことから、たからものの意に用いる、

とも(角川新字源・https://okjiten.jp/kanji60.html)ある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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