さて几帳の綻びより巻数木(かんじゅぎ)のやうに削りたる白くをかしげなるが二尺ばかりなるをさし出でて(今昔物語)、
の、
巻数木、
は、
寺から願主へ饗応した経文の巻数を知らせる文書(巻数)を付けて送る木の枝、
かんじゅぼく、
とも訓む(佐藤謙三校注『今昔物語集』)とある。木の枝は、
梅の若枝、
榊の枝、
などを用いた(精選版日本国語大辞典)。
(巻数 精選版日本国語大辞典より)
巻数、
は、
かんすう、
と訓むと、
巻物の数、
あるいは、
全集・叢書など、まとまった書物の冊数、
などをいうが、
手洗ひて、いで、その昨日のくゎんずとて、請(こ)ひ出でて、伏し拝みてあけたれば(枕草子)、
と、
かんじゅ、
訛って、
かんず、
と訓むと、
僧が願主の依頼で読誦(どくじゆ)した経文・陀羅尼(だらに)などの題目・巻数・度数などを記した文書または目録、
をいい(大辞泉)、
寺院が願主に贈る、
のだが、後に、これを短冊型の紙にしるし、木の枝などに付けたので、
巻数一枝、
などという(広辞苑)とある。依頼には、
貴族や領主などがとくに寺に依頼して読んでもらう場合、
と、
年中恒例となっている場合、
とがあり、
米穀や金品、荘園などの寄進という反対給付がついている場合が多い、
とある(世界大百科事典)。平安時代から日常化していたが、中世武家時代に入っても、
祈禱寺院に武運長久や怨敵退散を祈らしめて、そのしるしに巻数を献上させている、
とある(仝上)。これを見て願主は安堵し、寺は恩賞を期待したのである。
「巻数」は、後に、神道にもとりいれられ、
祈祷師は中臣祓(なかとみのはらえ)を読んだ度数を記し、願主に送った、
とある(仝上・大辞泉)。
「卷(巻)」(慣用カン、呉音・漢音ケン)は、
会意文字。𠔉は「采(ばらまく)+両手」で、分散しかける物を丸く巻いた両手で受けるさま。卩は人間がからだをまるくかがめた姿。まるくまく意を含み、拳(ケン まるくまいたこぶし)や倦(ケン 身体を軽くまいてかがめる)の原字、
とある(漢字源)。別に、
形声。卩と、音符𢍏(クヱン 𠔉は省略形)とから成る。ひざを折ってからだをまるめる、転じて、物を「まく」意を表す、
とあり(角川新字源)、
会意兼形声文字です。「分散しかけたもの」の象形と「両手」の象形(「両手で持つ」の意味)と「ひざを曲げている人」の象形から、「まるくまく」、「たばねる」を意味する「巻」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1056.html)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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