2023年04月27日

空薫(そらだき)


其の間、簾の内より空薫(そらだき)の香かうばしく匂ひ出でぬ(今昔物語)

とある、

空薫、

は、

空炷、

とも当て(広辞苑)、

香を室に豊富にくゆらせるのをいう、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)が、

どこでたくのかわからないように香をたきくゆらすこと(広辞苑)、
どこからともなく匂ってくるように香をたくこと。また、前もって香をたいておくか、あるいは別室で香をたいて匂ってくるようにすること(日本国語大辞典)、
何處よりとも知られぬやうに、香を薫(くゆ)らすこと(客を迎えるなどに)(大言海)、

とあり、だから、

暗薫、

ともいい(仝上)、それをメタファに、

にほひ来る花橘のそらたきはまかふ蛍の火をやとるらん(「夫木集(夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)(1310頃))」)、
匂ひくるそらだきものを尋ぬれば垣根の梅の謀るなりけり(仝上)、

と、

どこから来るともわからないかおり、

の意でも使う(岩波古語辞典・大言海)。また、

そらだきものするやらむと、かうばしき香しけり(宇治拾遺物語)、

と、

来客のある際、香炉を隠しおき、また、別室に火取りを置いて、客室の方を薫くゆらせるためにたいた香、

つまり、

空焼(だ)きの薫物、

を、

空薫物(そらだきもの)、

という。

聞香炉.png

(聞香炉(ききごうろ) https://www.yamadamatsu.co.jp/enjoys/soradaki.htmlより)


空薫 (2).jpg


つまり、

空薫、

とは、

間接的な熱を与える事で薫る御香を焚く方法、

をいい、

練香、
香木、
印香、

等々を焚くhttps://www.aroma-taku.com/page/18。これに対して、

掌の香炉から立ち上る幽玄な香りを楽しむ、

のを、

香炉から香りを、嗅ぐのとは異なり、心を傾けて香りを聞く、

という意味で、

聞香(もんこう)、

というhttps://www.shoyeido.co.jp/incense/howto.html

「薰」 漢字.gif



「薫」 漢字.gif

(「薫」 https://kakijun.jp/page/1612200.htmlより)

「薰(薫)」(クン)は、

会意兼形声。「艸+音符熏(クン くゆらす)」で、香草のにおいが、もやもやとたちこめること、

とある(漢字源)。別に、

形声。艸と、音符熏(クン)とから成る。かおりぐさ、ひいて「かおる」「かおり」の意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(艸+熏)。「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「煙の象形と袋の象形と燃え立つ炎の象形」(「香をたく・良い香り」の意味)から、「香気(良い香り)がする草」を意味する「薫」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji1572.htmlある。なお、「空」(漢音コウ、呉音クウ)は、「空がらくる」で触れた。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:05| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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