2023年04月29日
三遅
然るに、既に三地畢(は)てて、押し合ひて乗り組みてうち追ふ(今昔物語)、
にある、
三地、
は、
三遅、
の意で、
罰杯の意から転じて、酒、または酒宴の意、
とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
三遅(さんち)、
は、
酒宴に遅刻すること、
の意(広辞苑)だが、
酒が十巡した後に遅れて来席すること、
を、
三遅、
といい、
七巡以後を、
二遅、
五巡以後の場合を、
一遅、
といい(岩波古語辞典)、それぞれ、
遅参した者に課した罰酒、
として(精選版日本国語大辞典)、
杯が五回回ったのちに参会した者には三杯、七回り以後の者には五杯、十回り以後の者には七杯の酒を課した、
という、
三種類の飲酒による罰、
である(精選版日本国語大辞典)。平安時代のされた有職故実・儀式書『西宮記(さいきゅうき・せいきゅうき・さいぐうき)』(源高明・撰述)に、
五巡後到著者、可行三盃、七巡後到者、可行五盃、十巡以上到者、可行七盃、一遅、不得通風、二遅、酒閒架匀、三遅、非録事措手籌、
とある。
転じて、
三遅に先だってその花を吹けば暁の星の河漢に転ずるがごとし(和漢朗詠集)、
と、
酒、
または、
酒宴、
の意で使い(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、
さらに、
三遅の後、敦延が馬の膝より血はしりければ(古今著聞集)、
と、
競馬(くらべうま)の出走前の作法、
をもいい、
一遅、
は、
間隔を広くとり、
二遅、
は、
ちょうどよい程度にし、
三遅、
は、
鐙(あぶみ)をならすこと、
また、
三度ゆっくり馬をすすめること、
あるいは、鼓の合図で進み、鉦の合図で退き、馬をゆっくりと歩ませること、
ともいう(精選版日本国語大辞典)とある。この意で使う場合、
三地、
とも当てる(仝上)。
「遲(遅)」(漢音チ、呉音ジ)は、
会意。犀は、動物のサイのこと。歩みの遅い動物の代表とされる。遲は、「辶+犀」、
とある(漢字源・角川新字源)が、
『説文解字』では「辵」+「犀」と説明されているが、これは誤った分析である。金文の形を見ればわかるように「犀」とは関係がない、
とし、
形声。「辵」+音符「屖 /*LI/」「おそい」を意味する漢語{遲 /*lri/}を表す字、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%81%B2)。
なお、「三」(サン)は、「三会」で、「地」(漢音チ、呉音ジ)は、「依怙地」で触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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