年四十餘ばかりなる女の、かはらかなる形して、かやうの者の妻と見えたり(今昔物語)、
の、
かはらか、
は、
こざっぱりした、
意とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
かはらか、
は、
爽、
清、
と当て(大言海)、
こざっぱりしてきれいである(岩波古語辞典)、
さわやかである、さっぱりしている(精選版日本国語大辞典)、
さわやかに、さっぱりとしている意なりと云ふ(大言海)、
といった意で、
カワク(乾)と同根で、歴史的仮名遣は「かわらか」とすべきか(岩波古語辞典)、
カハラカは、乾(カワ)らかの仮名遣なるべきか、乾きたるは、やがて爽(さは)やかなり、爽(サハ)らかという語もあり(大言海)、
「らか」は接尾語。「かはらかなり」と表記される例も多いが、「かわ(乾)く」と語源的に同じとみて「かわらかなり」とする(学研全訳古語辞典)、
と、
乾く、
とつながるようである。そのためか、
胸をあけて乳などくくめ給ふ。……御乳はいとかはらかなるを、心をやりて慰め給ふ(源氏物語)、
と、
(乳など)さっぱりとあがっているさま、乳が出ないさま、
の意でも使っている(岩波古語辞典)。
さはらか、
は、
爽らか、
と当て、
サハヤカと同根、髪の毛の状態に使うことが多い、
として(岩波古語辞典)、
髪の裾少し細りて、さはらかにかかれるしも(源氏物語)、
と、
すっきりしているさま、
の意である。
かわく、
は、
乾く、
と当て、
水分や湿気がなくなる、
意だが、
気沸(け)わくの転、涸るるの意(大言海)、
カワク(香沸)の義(和訓栞)、
カレワクム(涸輪組)の義(言元梯)、
カタワク(形分)の義(名言通)、
水がないと河の神である河伯が苦しむところから、カハク(河伯苦)の義、またはカハク(日焼)か(和語私臆鈔)、
といった諸説よりは、
カハは物のさっぱりと乾燥したさまをいう擬態語、キは擬態語を受けて動詞化する接尾語(岩波古語辞典)、
の方が、使用例にもあっている気がする。「かわく」は、
kawaku、
のようなので、
カハク、
ではなく、
カワク、
で、その意味で、
かはらか、
ではなく、
かわらか、、
という仮名遣いではないか、という説に繋がっている。
「清」(漢音セイ、呉音ショウ、唐音シン)は、
会意兼形声。青(セイ)は、「生(芽ばえ)+井戸の中に清水のある姿」からなり、きょく澄んだことを示す。清は「水+音符青」で、きよらかに澄んだ水のこと、
とある(漢字源)。なお、呉音ショウは、
六根清浄(ショウジョウ)のような特殊な場合にしか用いない、
とある(仝上)。別に、
会意兼形声文字です(氵(水)+青(靑))。「流れる水」の象形と「草・木が地上に生じてきた象形(「青い草が生える」の意味)と井げた中の染料の象形(「井げたの中の染料(着色料)」の意味)」(「青くすみきる」の意味)から、水がよく「澄んでいる・きよい」を意味する「清」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji586.html)。
(「爽」 甲骨・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%88%BDより)
「爽」(漢音ソウ、呉音ショウ)は、
会意。「大(人の姿)+両胸に×印」で、両側に分かれた乳房または入墨を示す。二つに分かれる意を含む、
とある(漢字源)が、別に、
大とは両手を広げた人の姿。四つの「乂」は吹き通る旋風。人の周囲をそよ風が吹き通って「爽やか」、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%88%BD)、
会意。大と、四つの×(り、い 美しい模様)とから成る。美しい、ひいて「あきらか」の意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(日+喪の省略形)。「太陽の象形と耳を立てた犬の象形と口の象形と人の死体に何か物を添えた象形」の省略形から、日はまだ出ていない明るくなり始めた、夜明けを意味し、そこから、「夜明け」を意味する「爽」という漢字が成り立ちました。また、「喪(ソウ)」に通じ(「喪」と同じ意味を持つようになって)、「滅びる」、「失う」、「敗れる」、「損なう」の意味も表すようになりました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2191.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95