2023年05月09日

おほいらつめ


我はそこのおはしつらむ御坊の大娘(おほいらつめ)なり(今昔物語)、

とある、

大娘(おほいらつめ)、

は、

長女、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

おほいらつめ(おおいらつめ)、

は、

大嬢、

とも(岩波古語辞典・大言海)、

大郎女、

とも(精選版日本国語大辞典)当て、次女に当たる、

弟女(おといらつめ)、
あるいは、
二嬢(おといらつめ)、

の対で(岩波古語辞典・大言海)、

三尾君(みおのきみ)加多夫(かたぶ)の妹、倭比売に娶(めと)して生みませる御子、大郎女(おほいらつめ)(古事記)

と、

第一の女、
大姉(おほあね)、
おおおみな、

つまり、

長女、

の意である(仝上)。

貴人の長女を親しんでよぶ語、

なので、

大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)、

と、

名前の下につける(デジタル大辞泉)。

一に云はく、稲日稚郎姫(いなびのわきいらつめ)といふ。郎姫、此をば異羅菟咩(イラツメ)と云ふ(日本書紀・景行二年)、

と、

いらつめ(郎女)、

は、

いらつこ(郎子)、

の対で、

いらつひめ、

ともいい、

天皇または皇族を父とし、皇族に関係ある女を母とした女子を言うことが多い。記紀の景行以後、殊に応神以後に見える語、

とあり(岩波古語辞典)、そこから、

上代、女子に対する親愛の情をこめた称、

として用いられていく(仝上・精選版日本国語大辞典)。「郎女」の対、

いらつこ(郎子)、

は、

いらつきみ、

ともいい、

宮主矢河枝比売(みやぬしやがはえひめ)を娶(あ)ひて生みませる御子、宇遅能和紀郎子(うぢのわきいらつこ)(古事記・応神紀)、

と、

天皇または皇族を父とし、皇族に関係ある女を母とした男子の称か。系譜の上で応神天皇に関係ある男子に少数見える語、

とあり(岩波古語辞典)、転じて、

時に太子(ひつきのみこ)、菟道(うちの)稚郎子(わかいらつこ)、位を大鷦鷯尊(おほさざきのみこと)に譲りて、未即帝位(あまつひつきしろしめさす)(日本書紀・仁徳紀)、

と、

上代、男子に対する親愛の情をこめた称、

として用いる(精選版日本国語大辞典)。

郎子(ろうし)、

は、漢語で、

郎君、

と同義で、

幼時、見一沙門、指之曰、此郎子好相表、大必為良将責極人臣、語終失之(北史・暴顯傳)、

と、

他人のむすこの敬称、

である(字源)。しかし、

郎女、

は、

漢語にはない。

郎子(いらつこ)と対にして、日本語のイラの音を表すためにラウの音の「郎」を使ったものと見られる、

とあり(岩波古語辞典)、

郎子、

も、

イラツメ(郎女)に対して作られた語らしく、イラツメに比して例が極めて少ない、

とある(仝上)。

いらつめ、
いらつこ、

の、

いら、

は、

「いら」は「いろも」「いろせ」「かぞいろ」など特別な親愛関係を示す「いろ」と関係があり、「つ」はもと、連体修飾の助詞。「いらつめ」と同様、何らかの身分について用いられた一種の敬称と思われるが、平安時代には衰えた、

とある(精選版日本国語大辞典)が、「同母(いろ)」、「」で触れたように、このイロの語を、

親愛を表すと見る説が多かったが、それは根拠が薄い、

とされ(岩波古語辞典)、この「いら」は、

イロ(同母)の母音交替形、

と見られる(仝上)。当然、そうなれば、

イリビコ・イリビメのイリと同根、

ということになる(仝上)。ちなみに、

御間城入日子印惠命(みまきいりびこいにゑのみこと)……尾張連の祖、意富阿麻比売(おほあまひめ)を娶(あ)ひて生みませる御子、大入杵命(おほいりきのみこと)、次に八坂之入日子命(やさかのいりびこのみこと)、次に沼名木之入日売命(ぬなきのいりひめのみこと)(古事記)、

とある、

いりびこ(入彦)、
いりひめ(入日売)、

は、

崇神・垂仁・景行の三代にあらわれる名、多くイリビコ、イリビメと一対で、兄妹の間の名に使われる。いずれも、天皇・皇族、母は皇族・豪族の娘で、イリビコの中には天皇の位についた者があり、イリビメは祭祀に携わる巫女と思われる者がある。イリは同腹を表す語であったととも考えられる、

とある(仝上)。で、

同母、

と当てる「いろ」は、

イラ(同母)の母音交替形(郎女(いらつめ)、郎子(いらつこ)のイラ)。母を同じくする(同腹である)ことを示す語。同母兄弟(いろせ)、同母弟(いろど)、同母姉妹(いろも)などと使う。崇神天皇の系統の人名に見えるイリビコ・イリビメのイリも、このイロと関係がある語であろう、

とある(岩波古語辞典)。この「いろ」が、

イロ(色)と同語源(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
色の語源は、血の繋がりがあることを表す「いろ」で、兄を意味する「いろせ」、姉を意味 する「いろね」などの「いろ」である。のちに、男女の交遊や女性の美しさを称える言葉となった。さらに、美しいものの一般的名称となり、その美しさが色鮮やかさとなって、色彩そのものを表すようになった(語源由来辞典)、

と、色彩の「色」とつながるとする説もあるが、

其の兄(いろえ)神櫛皇子は、是讃岐国造の始祖(はじめのおや)なり(書紀)、

と、

血族関係を表わす名詞の上に付いて、母親を同じくすること、母方の血のつながりがあることを表わす。のち、親愛の情を表わすのに用いられるようになった。「いろせ」「いろと」「いろも」「いろね」など、

とあり(精選版日本国語大辞典)、

異腹の関係を表わす「まま」の対語で、「古事記」の用例をみる限り、同母の関係を表わすのに用いられているが、もとは「いりびこ」のイリ、「いらつめ」のイラとグループをなして近縁を表わしたものか。それを、中国の法制的な家族概念に翻訳語としてあてたと考えられる、

とされる(仝上)。因みに、「まま」は、

継、

と当て、

親子・兄弟の間柄で、血のつながりのない関係を表す。「まませ」「ままいも」は、同父異母(同母異父)の兄弟・姉妹、

である(岩波古語辞典)。また、

兄弟姉妹の、異腹なるものに被らせて云ふ語、嫡庶を論ぜず、

とある(大言海)。新撰字鏡(898~901)には、

庶兄、万々兄(まませ)、…(庶妹)、万々妹(ままいも)、継父、万々父(ままちち)、嫡母(ちゃくぼ)、万々波々(ままはは)、

とある。その語源は、

隔てあるところから、ママ(閒閒)の義(大言海・言元梯)、
マナの転で、間之の義(国語の語根とその分類=大島正健)、
ママ(随)の義。実の父母の没後、それに従ってできた父母の意(松屋筆記)、

等々があるが、たぶん。「隔て」の含意からきているとみていいのではないか。

ただ、

いろ、

は、

イラ(同母)の母音交替形(岩波古語辞典)、
イロ(色)と同語源(続上代特殊仮名音義=森重敏)、

など以外に、その語源を、

イは、イツクシ、イトシなどのイ。ロは助辞(古事記伝・皇国辞解・国語の語根とその分類=大島正健)、
イロハと同語(東雅・日本民族の起源=岡正雄)、
イヘラ(家等・舎等)の転(万葉考)、
イヘ(家)の転(類聚名物考)、
蒙古語elは、腹・母方の親戚の意を持つが、語形と意味によって注意される(岩波古語辞典)、
「姻」の字音imの省略されたもの(日本語原考=与謝野寛)、

等々とあるが、蒙古語el説以外、どれも、「同腹」の意を導き出せていない。といって蒙古語由来というのは、いかがなものか。

イロハと同語、

とある「いろは」は、

母、

と当て、類聚名義抄(11~12世紀)に、

母、イロハ、俗に云ふハハ、

とある。つまり、

イロは、本来同母、同腹を示す語であったが、後に、単に母の意とみられて、ハハ(母)のハと複合してイロハとつかわれたものであろう(岩波古語辞典)、
ハは、ハハ(母)に同じ、生母(うみのはは)を云ひ、伊呂兄(え)、伊呂兄(せ)、伊呂姉(セ)、伊呂弟(ど)、伊呂妹(も)、同意。同胞(はらから)の兄弟姉妹を云ひしに起これる語なるべし(大言海)

とあるので、「いろ」があっての「いろは」なので、先後が逆であり、結局、

いら、
いり、

とも転訛する「いろ」の語源ははっきりしない。

色彩、

の意の「色」については、「いろ」、「」で触れた。

「大」(漢音タイ・タ、呉音ダイ・ダ)は、「大樹」で触れたように、

象形。人間が手足を広げて、大の字に立った姿を描いたもので、おおきく、たっぷりとゆとりがある意。達(タツ ゆとりがある)はその入声(ニッショウ つまり音)に当たる、

とある(漢字源)。

「郞」 漢字.gif



「郎」 漢字.gif

(「郎」 https://kakijun.jp/page/0978200.htmlより)

「郎」 説文解字・漢.png

(「郎」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%83%8Eより)

「郞(郎)」(ロウ)は、

会意兼形声。良は粮の原字で、清らかにした米。郎は、「邑(まち)+音符粮」で、もとは春秋時代の地名であったが、のち良に当て、男子の美称に用いる、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(良+阝(邑))。「穀物の中から特に良いものだけを選びだす為の器具」の象形(「良い」の意味)と「特定の場所を示す文字と座りくつろぐ人の象形」(人が群がりくつろぎ住む「村」の意味)から、良い村を意味し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「良い男」を意味する「郎」という漢字が成り立ちました、

とあるhttps://okjiten.jp/kanji1482.html

「女」 漢字.gif

(「女」 https://kakijun.jp/page/0322200.htmlより)

「女」は、「をんな」、「」で触れたように、

「女」(漢音ジョ、呉音ニョ、慣用ニョウ)は、

象形、なよなよしたからだつきの女性を描いたもの、

とある(漢字源)が、

象形。手を前に組み合わせてひざまずく人の形にかたどり、「おんな」の意を表す、

とあり(角川新字源)、

象形文字です。「両手をしなやかに重ね、ひざまずく女性」の象形から、「おんな」を意味する「女」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji32.html。甲骨文字・金文から見ると、後者のように感じる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:52| Comment(1) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コトタマ
Posted by 言霊 at 2023年05月10日 02:49
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