2023年05月11日

めざまし


聟にならむと云はせけれども、高助、目ざましがりて文をだに取り入れさせざりけり(今昔物語)、

の、

めざましがる、

は、

興ざめなこととして、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

めざまし、

は、

目覚まし(岩波古語辞典・学研国語大辞典)、

あるいは、

目醒まし(大言海)、

と当て、

シク活用形容詞で、

(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ、

と活用し(学研全訳古語辞典)、

平安時代の仮名文学では、多く、上位の者が下位の者の言動や状態を見て、身の程を越えて意外であると感じたときに、

はじめより我はと思ひ上がり給(たま)へる御方々、めざましきものにおとしめそねみ給ふ(源氏物語)、

と、

(相手を見下した気分でいたのに)意外で癪に障る、
気にくわない、
目にあまる、

意や、

かの四の君をも、なほかれがれにうち通ひつつ、めざましうもてなされたれば(源氏物語)、

と、

(扱いが意外に粗末で)失礼だ、失敬だ、


の意、

さやかにもまだ見給はぬかたちなど、いとよしよししうけ高きさまして、めざましうもありけるかなと見捨てがたく(源氏物語)、

と、

(つまらぬものと思っていたが)意外に大したものだ、

の意や、

さらには、その価値表現が上がり、

案内も知らぬ者どもを、悪所へ追っ詰め追っ詰め笑ひたるこそ、めざましうして面白けれ(源平盛衰記)、

と、

実に愉快である、

意にまで、

事の状、思ひの外にて、目も醒むるばかりなり、

の意味を、

善悪、褒貶に通じて云ふ、

使い方である(大言海)。類義語に、

あさまし、

とする(仝上)のは、

あさまし

の、

意味の流れが、

意外である、驚くべきさまである(「思はずにあさましくて」)、

(あきれるほどに)甚だしい(「あさましく恐ろし」)、

興ざめである、あまりのことにあきれる(「つつみなく言ひたるは、あさましきわざなり」)、

なさけない、みじめである、見苦しい(「あさましく老いさらぼひて」)、

さもしい、こころがいやしい(「根性が浅ましい」)、

(あさましくなるの形で)亡くなる(「つひにいとあさましくならせ給ひぬ」)、

と、驚くべき状態の状態表現から、その状態への価値表現へと転じたように見えるのと似ている故である。

ただ、

瞠若(どうじゃく)、

とある(大言海)ように、

意外感に目を見張る、

という含意がついて回っているようである。

上記引用の、

目ざましがりて文をだに取り入れさせざりけり、

の、

めざましがる、

は、

目覚ましく思う、

意だが、接尾語「がる」は、

ガは接尾語ゲの古形、見た目の様子、ルは動詞語尾、

で、

気(ケ)あるの約、

ともあり(大言海)、

形容詞語幹・名詞につき、四段活用の動詞をつくる、

とあり(岩波古語辞典)、

ざえがる、
さかしらがる、
こころ強がる、
ねたがる、

等々、平安時代以後用いられた(仝上)。

自分はいかにも……があると思う、
……であるようなそぶりを他人にはっきり示す、
其の風をする、
……ぶる、

の意を表わす(仝上・大言海)とある。

「覺」 漢字.gif

(「覺」 https://kakijun.jp/page/E653200.htmlより)


「覚」 漢字.gif


「覺(覚)」(漢音呉音カク、漢音コウ・呉音キョウ・慣用カク)は、

会意兼形声。𦥯は「両手+×印に交差するさま+宀(いえ)」の会意文字で、爻(コウ)と同系のことば。片方が教え、他方が受け取るという交差が行われる家を示す。學の原字。覺はそれを音符とし、見を加えた字で、見聞きした刺激が一点に交わってまとまり、はっと知覚されること、

とある(漢字源)。音は、中国では、覚える意は、漢音呉音カク、さめる意は、漢音コウ・呉音キョウ・慣用カクと使い分けるが、日本では区別せず、カクである。別に、

会意兼形声文字です(學の省略形+見)。「両手と建物の象形と屋根のむねの千木(ちぎ)のように物を組み合わせた象形(「交わる」の意味)」(教える者が学ぶ者を向上させる場、すなわち「学ぶ」の意味)と「大きな目と人」の象形から、学んではっきり見える、「おぼえる・さとる」を意味する「覚」という漢字が成り立ちました、

とあるhttps://okjiten.jp/kanji603.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:39| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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