2023年05月14日
あからめ
本の妻の許に返り行きて、本のごと、あからめもせで棲みにける(今昔物語)、
の、
あからめ、
は、
よそめ、
の意で、
わきみ、
つまり、文脈では、
他の女には目もくれず、
の意とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
あから目、
傍目、
傍観、
などと当て(広辞苑・学研国語大辞典・大言海)、類聚名義抄(11~12世紀)には、
売目、アカラメ、
と、鎌倉初期の歌学書『八雲御抄(やくもみしょう)』(順徳天皇著)には、
外目、アカラメ、
とあり、
獅子(しし)は前に猿の二の子を置きてあからめもせず護りゐたるほどに(今昔物語)、
と、
ちらっと目をそらすこと、
わき見、
の意や、それをメタファに、
いみじき色好みを、かくあからめもせさせたてまつらぬこと(宇津保物語)、
と、
ちょっと他に心を移すこと、
(目が他の異性に移るというところから)男または女が、ほかの相手に心を移すこと、
つまり、
浮気、
の意で使い、さらに、
我が宝の君は、いづくにあからめせさせ給へるぞや(栄花物語)、
と、
(ふと、目がそれているという状態であるというところから)にわかに、姿が見えなくなること、
といった意でも使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。
何の禍ひそも、何の罪そも、不意之間(ゆくりもなく)あがこをあからめさしすること(景行紀)、
と、
ちょっと目をそらす間に、急に身を見えなくする、
忽然と姿をくらます、
意の、
傍目(あからめ)さし、
という言葉もある(岩波古語辞典)。
「あからめ」は、
アカラはアカル(散)の古形(岩波古語辞典)、
離(アカ)れ目の轉、細波(サザレナミ)、さざらなみ。疏疏(アララ)松原、あられまつばら(大言海)、
アカラはアカル(散)と同根(広辞苑)、
「あから」は「別(アカ)る」と同根か。「あから目」とも書く(大辞林)、
「あから」は、「あかる(散・離)」また「あからさま」の「あから」などと同根、「め」は「目」の意(日本国語大辞典)、
等々と、
離る、
散る、
別る、
分る、
ないし、
離散(あか)る、
などと当てる「あかる」からきている(大言海・大辞林・岩波古語辞典・広辞苑)。
あかる、
は、
ひと所に集まっていた人が、そこから散り散りになる、
意である(岩波古語辞典)。類聚名義抄(11~12世紀)には、
分、アカル、ワカレタリ、
とある。とみると、
あからめ、
は、
目を散らす、
という意味である。
「傍」(漢音ボウ、呉音ホウ)は、
会意兼形声。方は、鋤の柄が両脇に張り出た形を描いた象形文字。旁は、それに二印(ふたつ)と八印(ひらく)を加え、両側に二つ開いた両脇を示す。傍は、「人+音符旁(ボウ)」で、両脇の意。転じて、かたわら、わきの意をあらわす、
とある(漢字源)。別に、
会意形声。人と、旁(ハウ、バウ あまねく、かたわら)とから成り、「かたわら」の意を表す。「旁」の後にできた字、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(人+旁)。「横から見た人」の象形と「帆(風を受けるための大きな布)の象形と柄のある農具:すきの象形(並んで耕す事から「並ぶ・かたわら」の意味)」(「左右に広がった部分・かたわら」の意味)から、「かたわら」、「よりそう」を意味する「傍」という漢字が成り立ちました、
とも(https://xn--okjiten-e37k.jp/kanji1175.html)ある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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