2023年05月20日
まなかぶら
筒尻を以て小男のまなかぶらをいたく突きければ、小男、突かれて泣き立つと見る程に(今昔物語)、
の、
まなかぶら、
は、
目のふち、
とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
眶、
と当て、和名類聚抄(平安中期)に、
眶、和名万奈加布良(まなかぶら)、目眶也、
とあり、色葉字類抄(平安末期)には、
眶、マカフラ、
とあり、
まかぶら、
に同じとある(岩波古語辞典)。
まかぶらくぼ(窪)く、鼻のあざやかに高く赤し(宇治拾遺物語)、
と、
まかぶら、
も、
眶、
と当て、
目の周囲、
まぶち、
とある(仝上)。
まぶち、
は、
目縁、
眶、
と当て、
目のふち、
とあり(広辞苑)、
まなぶち、
とある。
まなぶち、
は、
眼縁、
と当て、
眼の縁、
とある(仝上)。どうやら、
まなかぶら、
は、
まなこ(目な子)、
まなじり(目な尻)、
まばゆし、
等々と使う、
め(目)の古形、
の、
ま(目)、
の、
目の被(かぶり)、
の意で(精選版日本国語大辞典)、
まなかぶら→まかぶら、
と転訛したもののようである。ただ、「まなかぶら」の、
かぶら、
の語源については、
かぶつち(頭槌)、
などと関連させ、「頭」の意と考える説もあ(精選版日本国語大辞典)、そうなると、本来、
目尻、
の対の、
目の、鼻に近い方の端、
の意の、
目頭(めがしら)、
の意であったものが、変化したことになる(仝上)。しかし、
目の被(かぶり)、
なら、文字通り、
目を被す、
つまり、
まぶた、
ではあるまいか。漢字、
眶、
は、
眶瞼、
眼眶、
などと使い、
まぶた、
の意であり、
匡、
と同じて、
目匡、
と使う(字源)とある。そうなると、大言海が、「まかぶら」の意に、
まぶた、
としているのは、見識ということになる。しかし、
匡、
は、
涙満匡横流(史記・淮南王安傳)、
と、
まぶち、
の意とある(仝上)。大言海も、
まぶた、
と並べて、
まぶち、
ものせる。そして、
まぶち、
自体が、
目のふち、
の意と共に、
まぶた、
の意もある(日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。どうやら、
まぶち、
と、
まぶた、
は、あまり区別されていなかったのかもしれない。あるいは、
まぶた→まぶち、
あるいは、
まぶち→まぶた、
と転訛したのかもしれないと思ったが、
メブチ(目縁)はマブチ(目縁)、メブタ(目蓋)はマブタ(目蓋)、メノフタ(目の蓋)はマナブタ(瞼)、メノフチ(目の縁)はマナブチ(眼縁)、メツゲ(眼つ毛)はマツゲ(睫)、メノシリ(眼の尻)はマナジリ(眦)、メノコ(眼の子)はマナコ(眼)になった、
とある(日本語の語源)ので、当初はしっかり区別していたと思える。とするなら、
眶、
に当てた以上、「眶」を、「まぶた」とみるなら(後述のように「眶」の字の意味については異説があるが)、
まぶた、
の意であったと見るのが妥当なのではあるまいか。
なお、「め」については触れた。
「眶」(キョウ)、
については、載る辞書が少なく、
まぶた、
と限定するもの(字源・https://kanji.club/k/%E7%9C%B6)のほか、
目の縁、
とするもの(https://cjjc.weblio.jp/content/%E7%9C%B6)、
目のふち、まぶち
と、
まぶた、
を載せるものもある(https://kanji.jitenon.jp/kanjiv/10542.html)。
熱泪盈眶(熱い涙が目に溢る)、
という言い方からすると、
まぶた、
目の縁、
どちらとも言い得る。
「匡」(漢音キョウ、呉音コウ)は、
会意兼形声。「匚(わく)+音符王(大きく広がる)」で、枠の中一杯に張る意を含む。廓(カク 家や町の外枠)や槨(カク 棺おけの外枠)は、匡の入声(ニッショウ 音)に当たる、
とある(漢字源)。別に、
形声。匚と、音符㞷(ワウ→クヰヤウ 王は省略形)とから成る。はこの意。「筐(クヰヤウ)」の原字。転じて「ただす」意に用いる、
とも(角川新字源)、
「匡」は「匩」の略字、「匩」は会意兼形声文字です(匚+王(㞷))。「柳・竹を曲げて造った箱」の象形と「古代中国で支配権の象徴として用いられたまさかり(斧)の象形(「盛ん」の意味)と植物の芽生えの象形(「芽生え」の意味)」(「盛んに芽生える」の意味)から、箱のように「形を正して盛んにする」、「ただす」を意味する「匡」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://xn--okjiten-8e2l.jp/kanji2380.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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