2023年06月06日

膳夫(かしはで)


其の男を呼びて問はむと尋ぬる程に、膳夫(かしはで)のあるが、これを聞きて云ふやう(今昔物語)、

の、

膳夫、

は、

膳、

とも当て、

宮中で、天皇の食膳や、饗応の食事のことをつかさどる人、

つまり、

料理人、

の意で(岩波古語辞典・広辞苑)、

膳部(かしはで・かしはでべ)、

と書くと、大和政権の品部(しなべ)で、律令制では宮内省の大膳職・内膳司に所属し、

朝廷・天皇の食事の調製を指揮した下級官人、

を指す(広辞苑)。それをつかさどるのは、

膳司(膳職 かしわでのつかさ)、

で、

長は、

膳臣(かしわでのおみ)、

と称し、子孫の嫡系は高橋朝臣(仝上)。律令制では、大宝律令制定時に、天皇の食事を掌る、

内膳司(ないぜんし・うちのかしわでのつかさ)、

と、饗膳の食事を掌る、

大膳職(だいぜんしき・おおかしわでのつかさ)、

に分かれた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%86%B3%E8%81%B7・大辞林)。

膳夫(ぜんふ)、

は漢語で、

膳夫掌王之食飲膳差(周禮)、

の註に、

膳、牲肉也、

とあり、

周代、宮中の食膳を司るもの、

の意である(字源)。

膳部(ぜんぶ)、

も漢語で、

晉代の官名、宮廷の料理を掌る、

意で、

料理人、

を意味する(仝上)。

膳夫(かしはで)、

は、

カシハの葉を食器に使ったことによる。テは手・人の意(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大辞林・日本語源広辞典)、
カシハは炊葉、テはシロ(料)の意で、ト(事・物)の転呼、カシハの料という意(日本古語大辞典=松岡静雄)、
カシハデ(葉人)の義(大言海)、

とあるが、

カシハ、

は、

カシワ(柏・槲)、

の意である。「柏餅」で触れたように、

もともと柏の葉で食べ物を包むというのは昔から行われていて、

古代に飯を盛るのに木の葉を縫い合わせたものの上にのせた。それを「かしは」とよぶ。すなわち「炊ぎ葉」(かしはぎ)である、

とある(たべもの語源辞典)。「」で触れたように、「かしわで(膳・膳夫)」は、

中世、寺院で食膳調理のことをつかさどった職制、

に転じ、

供膳、
饗膳、

の意となる(広辞苑)。たべものを盛る葉には、

ツバキ・サクラ・カキ・タチバナ・ササ、

などがあるが、代表的なのが、

カシワ、

であった(たべもの語源辞典)ので、「柏餅」の、

カシワの葉に糯米(昔は糯米を飯としていた)を入れて蒸したのは、古代のたべものの姿を現している、

ともいえる(仝上)。

」で触れたように、「カシワ」を容器とするものに、

くぼて(葉碗・窪手)、
ひらで(葉盤・枚手)、

がある。和名類聚抄(平安中期)に、

葉手、平良天、葉椀、九保天、

とあるように、

柏の葉を十枚合わせて、竹の針を以て刺し綴ぢて、平たく盤(さら)の如く作れるもの、

を、

ひらで(葉盤)、

其の窪きを、

くぼて(葉碗)、

という(大言海)。

葉、此れをば箇始婆(かしは)といふ(仁徳紀)、

とあり、「葉」を、

かしわ、

とも訓ますなど、

「木の葉」の「柏」、

「食器」の「かしわ」、

は関係が深いが、

堅し葉の約(雄略紀七年八月「堅磐、此云柯陀之波」)、葉の厚く堅きを擇びて用ゐる意なり(大言海)、

という「食器」の「かしわ」と、

かしは木の略(本草和名「槲、加之波岐)、かしはは(「葉」と訓んだかしはの)語なり、此樹葉、しなやかにして、食を盛るに最も好ければ、その名を専らにせしならむ、天治字鏡「槲、万加志波(大言海)、

とする「木の葉」の「かしわ」は、両者は深くつながり、

「かしわ」の葉を使ったから、その葉で作った食器を「かしわ」といったのか、

あるいは、

その葉で作った食器を「かしわ」といったから、その葉を「かしわ」といったのか、

先後がはっきりしない。たとえば、木の葉「かしわ」の語原を、

上古、食物を盛ったり、覆ったりするのに用いた葉をカシキ(炊葉)といい、これに多く柏を用いたから(東雅・古事記伝・松屋筆記)、
ケシキハ(食敷葉)の義(茅窓漫録奥・日本語原学=林甕臣)、
飯食の器に用いたから、またその形を誉めていうクハシハ(麗葉)の義(天野政徳随筆・碩鼠漫筆)、
神膳の御食を盛る葉であるところからいうカシコ葉の略(関秘録)、
食物を盛った木の葉(食敷葉・炊葉)(日本語源広辞典)

とするのは、

その葉で作った食器を「かしわ」といったから、その葉を「かしわ」といった、

とする説である。逆に、

食物を盛る古習からカシハ(炊葉)の義(国語学通論=金沢庄三郎)、
カシハ(槲・柏)の葉に食物を盛ったから(類聚名物考・本朝辞源=宇田甘冥)、
ケシキハ(食敷盤)の義(言元梯)、
カタシハ(堅葉)の義(関秘録・雅言考・言元梯・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥)、

とするのは、

「かしわ」の葉を使ったから、その葉で作った食器を「かしわ」といった、

とする説である。もし、葉の命名が先なら、

風にあたるとかしがましい音を立てる葉の意(和句解)、
カシは「角」の別音katが転じたもので、きれこみがあってかとかどしいこと。ハは「牙」の別音haで、葉の義(日本語原学=与謝野寛)、

という説もあるが、

「かしわ」の葉を使ったから、その葉で作った食器を「かしわ」といった、

のか、

その葉で作った食器を「かしわ」といったから、その葉を「かしわ」といった、

のか、何れが先かは、判別不能である。

「膳」 漢字.gif



「膳」 金文・西周.png

(「膳」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%86%B3より)

「膳」(漢音セン、呉音ゼン)は、

会意兼形声。善は、「羊+言」の会意文字で、ゆったりとゆとりがある意。もと亶(セン ゆったりと多い)と同系のことば。膳は「肉+音符善」で、いろいろとゆたかにそろえた食事。転じておいしいごちそうをいう、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(月(肉)+善)。「切った肉」の象形と「羊の首の象形と、取っ手のある刃物の象形と口の象形×2(原告と被告の発言の意味)」(羊を神の生贄とし、両者がよい結論を求めるさまから、「よい」の意味)から、よい肉を意味し、そこから、「供え物」、「供える」、「すすめる」を意味する「膳」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2186.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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