丁子染


烏帽子きたる翁の、丁子染(ちやうじぞめ)の狩衣袴のあやしげなるを着たるが来て座に着きぬ(今昔物語)、

の、

丁子染(ちょうじぞめ)、

は、

茶褐色に染めた、

と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

丁子染(ちょうじぞめ) (2).jpg

(丁子染(ちょうじぞめ) 丁子の蕾の煮汁で染めた染め物の色で黄みの暗い褐色のこと https://www.pinterest.jp/pin/848928598524092514/より)

丁子染、

は、

丁子の蕾の煮汁で染めた染め物の色で黄みの暗い褐色のことhttps://www.pinterest.jp/pin/848928598524092514/
丁子を染料とした染物。香染(こうぞめ)の黒ずんだ色のもの(精選版日本国語大辞典)、
丁子の蕾の煮汁で染めた染め物の色で黄みの暗い褐色のことhttps://irocore.com/chojizome/
丁花の蕾と少量の灰汁と鉄分を用いた濃い褐色http://uikoburi.jugem.jp/?eid=194
チョウジのつぼみの煮汁で染めた染め物。香染めのやや色の濃いもの(デジタル大辞泉)、
香木の丁子のつぼみと灰汁と鉄分で染めだされ黄みの暗い褐色http://www.so-bien.com/kimono/iro/tyouzizome.html

などとあり、微妙に色の含意が異なる。

香染(こうぞめ)、
濃き香(こきこう)、
こがれ香、

などともいう(仝上)とあるが、媒染剤を用いずに染めると、白茶に近い色になり、

淡き香、
香色、

と呼ばれるhttps://irocore.com/chojizome/とある。

いずれも落ち着いた色調で、染めてしばらくは色に丁子の香り、

が伴うらしい(仝上)。このように、

染めた布に香りが残るため、

香染め、

と呼ばれてきたhttps://maitokomuro.com/naturaldye/clove-dye/

ただし、

丁子、

は香木として高価だったため、一般には紅花と支子(くちなし)による代用染が行われた(仝上)が、

色調も褐色みの乏しい黄橙色、

になりhttp://www.so-bien.com/kimono/iro/tyouzizome.html、香りもない(仝上)とある。

丁子(ちょうじ)を濃く煎じて、その汁で染めたもの、黄地に赤みを帯びたもの、

は、

香染(こうぞめ)、

といい(精選版日本国語大辞典)、

丁子で淡く染めた淡い黄褐色、

は、前述したように、

灰汁と鉄分を用いず丁子のみ、

で染めるhttp://uikoburi.jugem.jp/?eid=194と、

後世でいう白茶に近い色、

となり、

淡香(うすこう)、
または、
香色(こういろ)、

という。つまり、一言で、

丁子染、

といっても、染め方の、

色の濃淡で呼び名が変わる、

ため、それぞれの色のニュアンスはよく分からないが、そのまま煮出して使用すると、

黄色がかった茶色である黄褐色(おうかっしょくいろ)、

鉄で媒染すると、

黒みがかった茶色である黒褐色(くろかっしょくいろ)、

に染まり、

丁子を煮て色素を抽出したその煎液(せんえき)の濃度、

と、

媒染剤の鉄分の多少、

によって、淡い黄褐色から濃い焦げ茶色まで色を調節できるhttps://iroai.jp/choji/ものらしい。そんな微妙な、

丁子染めの媒染による色の違い、

については、https://maitokomuro.com/naturaldye/clove-dye/に譲る。

チョウジノキ (クローブ).jpg

(チョウジノキ(クローブ) https://iroai.jp/choji/より)

チョウジ(丁子、丁字)、

は、香辛料として知られる、

クローブ、

のことで、

フトモモ科の樹木チョウジノキ(学名:Syzygium aromaticum)の香りのよい花蕾である。原産地は、

インドネシアのモルッカ群島、

香辛料、

として使われるほか、

生薬、

としても使われ、漢名で、

丁香(ちょうこう)

とも呼ばれhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%B8、生薬(漢方薬)として、

胃を温める効果があることから食欲増進などに作用する、

とされてきたhttps://hitotsuya.com/dye00003/

チョウジの花蕾は、

釘に似た形、

また乾燥させたものは、

錆びた古釘、

のような色をしており、

中国では紀元前3世紀に口臭を消すのに用いられ、「釘子(テインツ)」の名を略して釘と同義の「丁」の字を使って「丁子」の字があてられ、呉音で「チャウジ」と発音したことから、日本ではチョウジの和名がつけられた、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%B8

丁字(ちょうじ)、
丁香(ちょうこう)、

ともいいhttps://maitokomuro.com/naturaldye/clove-dye/、また、

非常に強い香気を持っているので、

百里香、

という和名もある(仝上)。

乾燥したチョウジ.jpg


漢語では、

丁香(テイコウ・チンコウ)、

ともいい、

雞舌香(けいぜつこう)、

ともいう(字源)が、

丁子、

は、

丁子有尾(荘子)、

と、

おたまじゃくし、

の意である(仝上)。

平安時代、

香色(こういろ)、

というと、

丁子などの香料の煮汁で染めた色、

または、

それに似せた色のことをいいhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E8%89%B2、色の濃淡で、

淡香(うすきこう)、
中香(なかのこう)、
濃香(こきこう・こがれこう)、

と呼び分け(仝上)たが、一般には、

ベニバナとクチナシを掛け合わせて染めた色、

を、

香色、

と呼んだ(仝上)。のちに、丁子を使わなくともその色彩に近いものを、

丁子茶、

と称するようになるhttps://iroai.jp/choji/。江戸時代には、

楊梅やまももと紅梅の根や樹皮を濃く煎じ出した染め汁である梅屋渋うめやしぶで丁子茶を染める技法(『諸色手染草(1772年)』)、
楊梅やまももと梅皮、苅安(かりやす)による法(『染物秘伝(1797年)』)、
楊梅やまももと中国からアジア西部に多いクロウメモドキ科の落葉高木である棗(なつめ)などで染める法(『染物早指南(1853年)』)、

などが記録にあるという(仝上)。

「丁」 漢字.gif

(「丁」 https://kakijun.jp/page/0202200.htmlより)

「丁」 甲骨文字・殷.png

(「丁」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%81より)

「丁」(漢音テイ・トウ、呉音チョウ)は、

象形。甲骨・金文は特定の点。またはその一点にうちこむ釘の頭を描いたもの。篆文はT型に書き、平面上の一点に直角に釘を当てたさま。丁は釘の原字、

とある(漢字源)。同趣旨で、

象形。くぎの頭、のち、くぎを横から見た形にかたどる。「釘(テイ)」の原字。借りて、十干(じつかん)の第四位に用いる、

とか(角川新字源)、

象形文字です。「釘を上・横から見た」象形から「くぎ」を意味する「丁」という漢字が成り立ちました。借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、十干(じっかん)の第四位、「ひのと」の意味も表すようになりました、

とかhttps://okjiten.jp/kanji518.html

釘の頭、

とする説が大勢だが、別に、

頭部の形を強調した人間の形である「天」字など、人間の頭をその構造に持つ字との比較から、この字が釘の形を表すとした従来の仮説は、根拠が弱いとして棄却された、

としhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%81

象形。人間の頭頂部の形。「あたま」を意味する漢語{頂 /*teengʔ/}を表す字。のち仮借して十干の4番目を意味する漢語{丁 /*teeng/}に用いる、

としている(仝上)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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