針目
物の色ども、打目(うちめ)、針目(はりめ)、皆いと目やすく調へ立てて奉りけるに(今昔物語)、
の、
打目、
は、
衣を打ってつやを出す、その打ち方、
とあり、
針目、
は、
衣のぬい方、
とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
打目、
は、
擣目、
とも当て、
つやを出すために絹布を砧(きぬた)で打った部分の光沢の出具合、
をいい(精選版日本国語大辞典)、
絹を砧で打ったときに生じる光沢の模様、
をいうので、
砧の跡、
ともいう(大辞林)。
絹帛の打物、
のことだが、
打物、
とは、
絹帛を、槌にて打ちて、光沢を生じさせるもの、
の謂いで、のちに、
板引、
となっても、そのまま、旧名を称したものである(大言海)。
板引、
とは、
漆塗りの板の上に、糊をつけたる絹を貼りつけ、燥(かわ)かして、引き離したるもの、
で、
絹に光沢を発せしむ、
とあり(大言海)、
紅絹、
白絹、
がある(仝上)。これだとわかりにくいが、平安時代に日本で考案された布地の加工法で、砧打ちの手間を省くために、
蝋などの植物性の混合物で生地をコートして艶と張りを持たせる、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BF%E5%BC%95)、具体的には、
漆塗りの一丈近い板に、糊が張り付くのを予防するのと生地に滑らかさを与える目的で胡桃油を塗る。ついで滑らかさと耐久性を与える木蝋を塗る。姫糊(原料はコメ)で張りを持たせた生地を板に貼り付けて完成。加工に使う材料は、全て天然由来の植物加工品である、
とある(仝上)。
濃き打ちたる上着に、紅梅、もえぎなどを重ね着て(今昔物語)、
の、
濃き打ちたる、
とあるのは、
きぬたで打ってつやを出した、
意で、
濃き、
とは、
紫の濃いのをいう、
とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
針目、
は、文字通り、
わが背子が着(著 け)せる衣の針目おちず入りにけらしもわが情(こころ)さへ(万葉集)、
と、
針で縫った跡、
つまり、
縫目、
をいう(岩波古語辞典)。慶長二年(1597)の、最古のイロハ引き国語辞書『匠材集(しょうざいしゅう)』に、
針目、つづり也、
とあり、
針目衣(はりめぎぬ はりめごろも)、
というと、
つぎはぎだらけの衣、
また、
ぼろを綴り合わせた着物、
の意で、
つづれ、
ともいう(岩波古語辞典)。
「鍼」(シン)は、
会意文字。「金+咸(感 強いショック)」で、皮膚に強い刺激をあたえるはりのこと。針とまったく同じ、
とあり(漢字源)、「針」(シン)は、
形声、「金+音符十」。十の語尾pがmに転じて、シムの音をらわす、
とあり(仝上)、
十(シフ→シム はりの形)、
とある(角川新字源)。なお、
針は俗字、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%87%9D)。別に、
会意兼形声文字です(金+十)。「金属の象形とすっぽり覆うさまを表した文字と土地の神を祭る為に柱状に固めた土の象形」(土中に含まれる「金属」の意味)と「針」の象形から、「はり」を意味する「針」という漢字が成り立ちました(「十」は「針」の原字です)、
とある( https://okjiten.jp/kanji948.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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