岡村直樹『時代小説がもっとわかる! 江戸「仕事人」案内』を読む。
本書では、
46種の稼業(仕事)を、
遊芸・娯楽(花魁・女衒・貸本屋・歌舞伎役者・相撲取り・大道芸人・船宿・幇間・遊芸師匠・落語家・)
職人・技人(絵馬師・鏡磨き師・経師屋・大工・彫師・刀工・廻り髪結い)
生活・諸事(岡っ引・水茶屋・駕籠屋・瓦版屋・木戸番・切り絵図屋・女掏摸・公事屋・差配人・付き馬屋・寺子屋師匠・名主・飛脚・火消し・渡し守)
流通・商業(菓子商・鰹節商・金貸し・口入屋・材木商・質屋・定斎売り)
武家社会(内与力・江戸留守居役・御庭番・勤番侍・火付盗賊改方・奉行所同心・浪人)
の、五つに分け、さらに、各章末に、簡単な紹介の、
狂歌師・角兵衛獅子・新内語り・娘義太夫・鳥追い女・芸者・講釈師・砂絵師・能楽師
竹細工職人・錠前師・庭師・下駄職人・仏師・指物師・彫金師・弓細工師・からくり師
料理人・水売り・旅籠・湯屋・渡世人・盗っ人・自身番書役・女壺振り・風車売り・陰陽師・医者・歯医者
夜鷹蕎麦・札差・両替商・小間物屋・棒手振り・眼鏡屋・廻船問屋・古道具屋・薬種商・酒問屋・香具師
首切り役人・天文方・御数寄屋坊主・関東郡代・八州廻り・道場主・用人・奥女中・奥祐筆・鷹匠・中間・虚無僧
の、54種を加えて、100種の稼業を紹介している。ひどく偏った紹介になっていることは、一目瞭然である。本書のタイトル、
時代小説がもっとわかる、
というのは羊頭狗肉で、本書は、
時代小説で知る、
江戸の稼業、
というのが正確のようで、ネタは、時代小説から取っている。例えば、冒頭の、
花魁、
女衒、
は、『吉原手引草』(松井今朝子)に依っているし、
寺子屋師匠、
は、『よろず屋平四郎活人剣』(藤沢周平)、
絵馬師、
は、『逃げ水半次無用帖』(久世光彦)、
火消し、
は、『岡っ引きどぶ』(柴田錬三郎)、夏負けの特効薬を売る、
定斎売り、
は、『深川黄表紙掛取り帖』(山本一力)、
瓦版屋、
は、『橋廻り同心・平四郎控・残り鷺』(藤原緋沙子)、
切り絵図屋、
は、『切り絵図屋・清七 ふたり静』(藤原緋沙子)、
御庭番、
は、『御庭番秘聞』(小松重男)、といった具合だ。
逆に言うと、小説のネタにならないような、仕事、職業は、殆ど紹介されていないことになる。当然、独自の突っ込みはなく、作家のネタに頼っている。当然、
職人盡繪詞(https://dl.ndl.go.jp/pid/11536004)、
のように、網羅されていないので、ありふれた、
煙管売、
鋳掛屋、
屋台、
もなければ、「水売り」以外の、
ぼてふり(振売)、
もほとんど紹介がない。小説の主人公にはなりにくいからだが、どうせ、小説からネタを取るなら、ほんの一字出ているだけの、稼業を拾いだし、その奥行きを描いて見せる手際でないと、これでは、あまりに安直に過ぎる気がしてならない。
(箱詰めのすしを売る振売(「守貞漫稿」) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%AF%E5%A3%B2より)
(初鰹を売る振売(守貞漫稿) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%AF%E5%A3%B2より)
(煙管売・鋳掛屋・琵琶葉湯売・蚊帳売 『職人尽絵詞(しょくにんづくしえことば)』) https://www.benricho.org/Unchiku/edo-syokunin/04syokuninzukushiekotoba/より)
(屋台店(天婦羅屋・鯣(するめ)屋・四文屋) 『職人尽絵詞』) https://www.benricho.org/Unchiku/edo-syokunin/04syokuninzukushiekotoba/より)
(髪結床・錠前直し・鋸目立・大道商人(書画売)(職人尽絵詞) https://www.benricho.org/Unchiku/edo-syokunin/04syokuninzukushiekotoba/より)
参考文献;
岡村直樹『時代小説がもっとわかる! 江戸「仕事人」案内』(Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95