やがて聞きしより始めて、朝(あした)には懺法(せんぼふ)を誦みて六根を懺悔し、夕(ゆふべ)には阿弥陀経を誦みて西方の九品往生(くほんわうじやう)を祈ること、五十日勤め祈りき(梁塵秘抄口伝集)、
とある、
懺法、
は、
せんぽう、
とも訓み、
経を読誦して、罪過を懺悔(さんげ)する儀式作法。罪障を懺悔するために、特別に行なう法要、
をいい、古くは、
悔過(けか)、
といって、
法華懺法、
観音懺法、
阿彌陀(あみだ)懺法、
などは滅罪生善の後生菩提(ごしょうぼだい)のために、
吉祥懺法、
は鎮護国家、息災延命のために行なわれた(精選版日本国語大辞典)が、
普通は諸経に基づき、罪を懺悔する修法・儀式法則、
をいい(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)、
滅罪生善のための法華懺法、
あるいは、
後生菩提のための阿弥陀懺法、
が行われた(仝上)とある。
朝には懺法を誦みて、
は、
「六根(眼・耳・鼻・舌・身・意の六種の根は、これらを対象とする執着の罪を生ずる)を懺悔し」という法華懺法、
をいい、
夕には阿弥陀経を誦みて、
は、
「西方の九品往生を祈る」という阿弥陀懺法、
を意味する(仝上)とあり、このような暁に法華懺法を行い、夕方に阿弥陀懺法が行われるのが一般であった(仝上)という。中古以後、
法華懺法がもっとも盛んで、懺法は法華懺法の略称となった、
とある(精選版日本国語大辞典)。「六根」については「六根五内」で触れた。
九品往生(くほんおうじよう)、
は、
『観無量寿経』によれば、
凡夫は生前に積んだ功徳に応じて浄土往生が九階層に分かたれているという。すなわち、極楽には上品・中品・下品があり、さらにそれらが上生・中生・下生に分かたれ、往生の違いによって迎えられる蓮華の台が異なり、これを九品往生といった、
とある(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)。
九品往生、
とは、
阿弥陀如来の住む極楽浄土に生れたいと願う者の9段階(九品)の往生の仕方、
をいい(ブリタニカ国際大百科事典)、
九品浄土に往生しようと願って念仏すること、
を、
九品念仏(くほんねんぶつ)、
その、往生する者の機根に応じて九等の差別がある浄土を、
十方仏土の中には西方を以て望とす九品蓮台の間には下品といふとも足んぬべし(和漢朗詠集)、
と、
九品浄土、
あるいは、
九品安養界(あんにょうかい)、
九品の浄刹(じょうせつ)、
阿弥陀の西方浄土、
極楽浄土、
ともいい、その極楽浄土にある往生した者が座す蓮の台(うてな)、
を、
九品蓮台(くほんれんだい)、
という。それも、生前の功徳によって九等の差別があるので、
九品のうてな。
九品の蓮(はちす)、
といい、
阿弥陀仏が九品ごとに異なる来迎をするさまを描いた仏画、
の、印相の異なる9体の阿弥陀如来像を、
九品来迎図(くほんらいごうず)、
という。その阿弥陀仏を、九品浄土の教主という意味で、
九品の教主(くほんのきょうしゅ)、
という(広辞苑)。
九品、
は、
三三品(さんさんぼん)、
ともいい、
上品(ジヨウボン)、
中品(チユウボン)、
下品(ゲボン)、
に三分し、それぞれが、
上生(ジヨウシヨウ)、
中生(チユウシヨウ)、
下生(ゲシヨウ)、
に分けられ、
上品上生(じょうぼんじょうしょう)・上品中生・上品下生・中品上生・中品中生・中品下生・下品上生・下品中生・下品下生、
九種の階位をいう(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E4%B9%9D%E5%93%81・学研全訳古語辞典)。
九品の往生人が、菩薩の修道階位のどの位置に該当するかについては異説があり(仝上)、九品の人を高位の位置と見るのが、
上品を大乗人の中の種性已上とし、中品を小乗人の中の凡より聖に入るとし、下品を大乗人の中の外凡とする(浄影寺慧遠(じょうようじえおん)『観経義疏』)、
上品を習種から解行げぎょうの菩薩とし、中品を外凡の十信已下とし、下品を今時の悠々の凡夫としている(智顗『観経疏』)、
(浄全五・三五〇上~一上/正蔵三七・二四五上~中)では、上品を大乗の善とし、中品を小乗の善とし、下品を悪をなし善のない、過去に発心したものとする(吉蔵『観経義疏』)、
に対し、九品すべてが凡夫であるとするのは、
上品を大乗に出遇った凡夫、中品を小乗に出遇った凡夫、下品を悪に出遇った凡夫としている(善導は『観経疏』)、
など分かれている(仝上)。法然は、
九品は「釈尊ノ巧言」(釈尊の巧みな手だてのことば)であり、善人も悪人も同じところに往生するといえば悪業をなす者が慢心をおこすであろうから、方便として階位の違いを述べたのだ(『十二問答』)、
という(仝上)。「九品」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E5%93%81)に詳しい。
(阿弥陀聖衆来迎図(高野山有志八幡講十八箇院蔵 平安時代後期) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%BF%E5%BC%A5%E9%99%80%E8%81%96%E8%A1%86%E6%9D%A5%E8%BF%8E%E5%9B%B3より)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95