2023年07月18日
懈(たゆ)し
寐たる人打驚かす鼓かな、如何に打つ手の懈(たゆ)かるらん、可憐(いとをし)や(梁塵秘抄)、
の、
懈(たゆ)かる、
は、
(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ
と活用する、
く活用の形容詞、
たゆし、
で、
弛し、
懈し、
とあてる(岩波古語辞典・学研国語大辞典)。
垂るに通ず、
とあり(大言海)、
京師(みやこ)べに君は去(い)にしを誰解けかわが紐の緒の結ふ手手懈(たゆき)も(万葉集)、
と、
だるい、
元気がない、
意や、
いとつつましげにたゆくみなし給つるまみ(夜の寝覚)、
と、
目つきが、だるそうで力がない、
意で使い、この状態表現を価値表現に転じて、
心行き届かず、心の働き活き遅し、
の結果、
あやしくたゆくおろかなる本性にて(源氏物語)、
と、
鈍い、
(性格が)ぐずである、
とか、
わがたゆく世づかぬ心のみくやしく(仝上)、
と、
ぼんやりしている、
のんびりしている、
とか、
例のさいふとも日たけなむと、たゆき心どもは、たゆたひて(紫式部日記)、
と、
心のはたらきが鈍い、
気がきかない、
意などで使う(岩波古語辞典・学研国語大辞典)。この、
たゆし、
の動詞形が、
たゆむ(弛・懈)、
で、
持続する緊張がゆるむ意、類義語倦むは、長らく事にかかっていて疲れ、途中で嫌気がさして投げ出す意、
とある(岩波古語辞典)。
「懈」(漢音カイ、呉音ケ、慣用ゲ)は、
会意兼形声。解(カイ)は、ばらばらに解き放すこと。懈は「心+音符解」で、心の緊張がとけてだらけること、
とある(漢字源)。
「弛」(漢音呉音シ、慣用チ)は、
会意兼形声。也は、平らに長く伸びたサソリを描いた象形文字。弛は「弓+音符也」で、ぴんと張った弓がだらりと長く伸びること、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(弓+也)。「弓(ゆみ)」の象形(「弓」の意味)と「女の生殖器、または、蛇」の象形(「ひさげ(取っ手と注ぎ口をつけた形の容器)」の意味)から、ひさげ一杯の水が、たれ流れるように、弓のつるが「ゆるむ」を意味する「弛」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2444.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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