冬來(く)とも柞(ははそ)の紅葉(もみじ)な散りそよ、散りそよ勿(な)散りそ色變(か)へで見ん(梁塵秘抄)、
の、
柞、
は、
ははそのき(柞木)、
ともいい、
ミズナラなどのナラ類およびクヌギの総称(精選版日本国語大辞典)、
ブラ科の落葉喬木、ナラ(岩波古語辞典)、
古くは近似種のクヌギ・ミズナラなどを含めて呼んだ。誤ってカシワをいうこともある(デジタル大辞泉)、
などとあるが、
コナラの古名、
ともある(日本大百科全書・植物名辞典)。和名類聚抄(平安中期)には、
柞、波波曾、
とあり、
柞はいぬつげなり、
とあり(大言海)、字鏡(平安後期頃)には、
楢、波波曾、
とある。書言字考節用集(江戸中期)には、
柞、ハハソ、ニシキギ、ユシ、ユス、
とあり、後述の「イスノキ」と混同するなど、かなり混乱している。
この、
柞(ははそ)、
は、古く、
はわそ、
とも表記した(精選版日本国語大辞典)が、
たとへばはうその木にふるい葉がしげったに又其あとに枝のやうに生ずると(古活字本毛詩抄)、
と変化して、
はうそ(ほうそ)
ともいう(精選版日本国語大辞典)。
コナラ(小楢)、
は、
ブナ目ブナ科コナラ属の落葉広葉樹、
別名、
ハハソ、
ホウソ、
ナラ、
ともよばれる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%8A%E3%83%A9)。和名、
コナラ、
の由来は、もう一つの日本の主要なナラであるミズナラの別名であるオオナラ(大楢)と比較して、葉とドングリが小さめで「小楢」の意味で名づけられた(仝上)とある。
なお、
ははそ、
は、
語頭の二音が同音である、
ところから、
母の意をかけて、
いい、
母の雅語、
ともなる(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
ははそ、
の語源は、
ハハソヒ(葉々添)の義(名言通・大言海)、
ハホソ(葉細)の義(言元梯)、
などとあるが、「柞」を、
コナラ、
と仮定すると、
オオナラ(大楢)と比較して、葉とドングリが小さめで「小楢」の意味で名づけられた、
という意味から、
ハホソ(葉細)、
はありえる気がする。
柞、
は、また、
いかにせん逢ことかたきゆすの木の我にひかれぬ人の心を(七十一番職人歌合(1500頃か)四二番)、
と、
ゆすのき、
あるいは、
ゆしのき(柞)、
ゆし(柞)、
とも訓み、
いすのき(柞)の古名、
とある(精選版日本国語大辞典)。
イスノキ、
は、
マンサク科の常緑高木、
別名、
ユスノキ、
ユシノキ、
クシノキ。
イス、
中国名は、
蚊母樹、
葉にしばしば虫こぶ(虫えい)がつき、大きくなると穴が開くのが特徴、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%8E%E3%82%AD)、
葉に生ずる虫こぶはタンニンを含み、染料に、材は堅くて重く、柱・机・櫛くし・そろばん玉などに用いられ、また柞灰(いすばい)も作られる、
ともある(デジタル大辞泉)。虫こぶを吹いたときに鳴る音から、
ひょんのき、
ともいい、
さるぶえ、
さるびょう、
ともいう(仝上)。
(「柞」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9F%9Eより)
「柞」(漢音サク、呉音ザク)は、
会意兼形声。「木+音符乍(サ さっさときる)」、
とある(漢字源)。
(「乍」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%8Dより)
「乍」(漢音サ、呉音ジャ)は、
象形。刃物をさっと∠形に切るさまを描いたもので、刃物で切れ目を入れることを表す。作(サク・サ さっと切る→はじめて動作を起こす)の原字。詐(つくりことば)・昨(サク 昔(セキ)に当てて用いる)の音符となる。作が作為の意に専用されたため、乍は急切な動作をあらわす副詞となった、
とある(漢字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:柞(ははそ)