2023年07月24日

阿耨(あのく)菩提


歸命頂禮大権現、今日(けふ)より我等を捨てずして、生々世々に擁護(おうご)して、阿耨(あのく)菩提成したまへ(梁塵秘抄)、

の、

阿耨(あのく)菩提、

は、サンスクリット語、

アヌッタラー(無上の)・サムヤク(正しい、完全な)・サンボーディ(悟り)、

の意の、

anuttarā samyak-sabodhi、

の音写、

佛説是普門品時、衆中八萬四千衆、皆発無等等阿耨多羅三藐三菩提心(法華経)、

とある、

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみやくさんぼだい)、

の略、

阿は無、耨多羅は上、三は正、藐は等、三は正、菩提は悟り(大日経)、

と、

仏の仏たるゆえんである、このうえなく正しい完全なる悟りの智慧(ちえ)のこと、

を言い、

縁覚(えんがく 仏の教えによらずに独力で十二因縁を悟り、それを他人に説かない聖者)、
声聞(しょうもん 仏の教説に従って修行しても自己の解脱のみを目的とする出家の聖者)、

がそれぞれ得る悟りの智慧のなかで、

此三菩薩必定阿耨多羅三藐三菩提不退無上智道(顕戒論(820))

と、

仏の菩提(ぼだい)は、このうえない究極のものを示す、

とされ(日本大百科全書)、

無上正等正覚(むじょうしょうとうしょうがく)、
無上正真道(しょうしんどう)、
無上正遍知(しょうへんち)、

などと訳される(仝上・精選版日本国語大辞典)。

大乗仏教では、

声聞乗(声聞のための教え)を縁覚(えんがく 独覚(どっかく))乗、

を二乗と称し、

菩薩(ぼさつ)乗、

を、三乗とするが、このうち二乗を小乗として貶称(へんしょう)し、声聞は仏の教えを聞いて修行しても自己の悟りだけしか考えない人々であると批判し(仝上)、

小乗の声聞の菩提、
と、
縁覚の菩提、

は執着や煩悩を滅尽しているけれども、真の菩提ということはできず、大乗の仏と菩薩の菩提のみが、

阿耨多羅三藐(あのくたらさんみやく)三菩提(anuttarasamyak‐saṃbodhi)、

であるとしている(仝上)。

菩提(ぼだい)、

は、サンスクリット語、

ボーディbodhi、

の音写。ボーディは、

ブッドフbudh(目覚める)、

からつくられた名詞で、

真理に対する目覚め、すなわち悟りを表し、その悟りを得る知恵を含む、

とされ、その最高が、

阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)、

であり、

最高の理想的な悟り、

の意で、この語は、仏教の理想である、

ニルバーナnirvāa(涅槃(ねはん))、

と同一視され、のちニルバーナが死をさすようになると、それらが混合して、

菩提を弔う、

といい、

死者の冥福(めいふく)を祈る、

意味となった(仝上)。

法華経(妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう))、

については、「法華経五の巻」で触れたが、

法華経のサンスクリット語の原題の逐語訳は、

正しい・法・白蓮・経、

で、

白蓮華のように最も優れた正しい教え、

の意であるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%8F%AF%E7%B5%8C

白い蓮の花.jpg


ところで、「耨多羅三藐(あのくたらさんみやく)三菩提」の「阿耨」を取った、

阿耨観音(あのくかんのん)、

というのがあり、

三十三観音の一尊、

で、

妙法蓮華経の一節、

或漂流巨海/竜魚諸鬼難/念彼観音力/波浪不能没(=大海を漂流しているときに龍や魚や鬼による難があっても、彼の観音の力を念ずれば、波でさえその者を侵すことができない)、

に対応する仏尊とされる。「阿耨」という尊名は、

阿那婆達多竜王の住む「阿耨達池(あのくだっち)」と呼ばれる池の名前から。岩上に立てた右膝を両手で抱える形で坐し滝を眺める姿で描かれる、

とあるhttps://shimma.info/amp/item_anokukannon.html

阿耨観音(あのくかんのん) (2).jpg

(阿耨観音(あのくかんのん)(「増補諸宗 佛像図彙」(土佐秀信)) https://shimma.info/amp/item_anokukannon.htmlより)

三十三観音、

は、観音が衆生済度のために三三体に姿を変えると説く経説(法華経普門品)に付会して、

三十三応現身(さんじゅうさんおうげんしん)、

と、俗信の観音を三三に整理したもので、

楊柳(ようりゅう)、龍頭(りゅうず)、持経(じきょう)、円光、遊戯(ゆげ)、白衣(びゃくえ)、蓮臥(れんが)、滝見(たきみ)、施薬(せやく)、魚籃(ぎょらん)、徳王、水月(すいげつ)、一葉、青頸(しょうきょう)、威徳(いとく)、延命、衆宝(しゅほう)、岩戸(いわと)、能静(のうじょう)、阿耨(あのく)、阿麽提(あまだい)、葉衣(ようえ)、瑠璃、多羅尊(たらそん)、蛤蜊(はまぐり)、六時、普悲(ふひ)、馬郎婦(めろうふ)、合掌、一如(いちにょ)、不二、持蓮、灑水(しゃすい)、

の三三体をいう(精選版日本国語大辞典)。三十三感応像については「仏像図彙(土佐秀信)」http://rokumeibunko.com/butsuzo/bosatsubu/b01901_sanjusankannon.htmlに詳しい。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:28| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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