遣戸


山の調(しらめ)は櫻人、海の調は波の音、又嶋廻(めぐ)るよな、巫女(きね)が集ひは中の宮、嚴粧(けさう)遣戸(やりど)は此處(ここ)ぞかし(梁塵秘抄)、

の、

嚴粧遣戸(けさうやりど)、

の、

嚴粧、

は、

化粧、

の意のようで、

嚴粧遣戸、

で、

きれいに飾った遣戸、

の意らしいhttp://false.la.coocan.jp/garden/kuden/kuden0-1.html。ただ、

化粧、

には、

化粧垂木(けしょうだるき)、
化粧木舞(けしょうこまい)、

のように、

軒下や室内にあらわれている、

という意もあるが。

また、

櫻人、
波の音、

は、

催馬楽の一曲、

を指すようである(仝上)。

調(しらめ)、

は、

マ行下二段活用の動詞「調む」の連用形、あるいは連用形が名詞化したもの、

で、

調む、

は、

秋の名残を惜しみ、琵琶を調めて(平家物語)、

と、

調べる、

に同じで、

演奏する、

意である(精選版日本国語大辞典)。

遣戸.bmp

(遣戸 精選版日本国語大辞典より)

遣戸、

は、

鴨居(かもい)と敷居(しきい)との溝にはめて、横に引いて開閉する戸、

のことで、いわゆる、

引き戸、

のことである。

開戸(ひらきど)に対す、送り遣りて開く故に云ふ、

とある(大言海)ので、

妻戸(つまど)、

の対である(学研全訳古語辞典)。ただ、寝殿造の外周建具は、扉の部分の、

妻戸(つまど)、

を除くと、大半は、

蔀戸(しとみど)、

であった。「蔀」については、「半蔀(はじとみ)」で触れた。

妻戸.bmp

(妻戸 精選版日本国語大辞典より)


蔀.bmp

(蔀 精選版日本国語大辞典より)

遣戸、

は、

平安時代の寝殿造で初めて用いられ、室町時代に入って書院造に多用された、

とあり(日本大百科全書)、引違いのものは、

違いの遣戸、

ともよばれた。また、遣戸のみでは室内が暗くなるので、

鴨居、敷居の樋端(ひばた 溝のへり)を三本溝とし、外側に板戸2枚、内側に障子を入れて明かり取りとした、

とあり、板戸で横に桟を何段にも入れて板押さえとしたものを、

舞良戸(まいらど)、

という(仝上)とある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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