2023年08月08日
私選句
松尾芭蕉『奥の細道 俳諧紀行文集』『幻住庵の記・嵯峨日記』を読む。
死後の『笈日記』を除いた、
奥の細道、
野ざらし紀行、
鹿島紀行、
笈の小文、
更科紀行、
幻住庵の記
嵯峨日記、
など、紀行文、日記を中心に見たので、初期の、
古池や蛙飛びこむ水のおと、
名月や池をめぐりて夜もすがら、
といった名句もないし、晩年の、
此道や行人なしに龝の暮、
旅に病で夢は枯野をかけ廻る、
という句もないが、地の文との関係や、そのときの場所、人との関係の深い句ははぶき、独立して味わえるもののみを、勝手な好みで選びとってみた。書評に代えた、私選・芭蕉句集である。
ただ、昔『奥の細道』を読んだとき、
田一枚うゑてたちさるやなぎかな、
の句にある、時間経過を一瞬で表現する句に圧倒された記憶がある。今回も同じで、これが最も好きな句だ。
「奥の細道」からは、
行く春や鳥啼き魚の目は泪
あらたふと青葉若葉の日の光
野を横に馬引きむけよほととぎす
田一枚植ゑて立ちさる柳かな
夏草や兵どもが夢の跡
五月雨の降りのこしてや光堂
閑さや岩にしみ入る蝉の声
蚤虱馬の尿(しと)する枕もと
五月雨をあつめて早し最上川
雲の峰幾つくづれて月の山
暑き日を海にいれたり最上川
象潟(きさがた)や雨に西施がねぶの花
荒海や佐渡に横たふ天の河
一家(ひとつや)に遊女もねたり萩と月
塚も動け我が泣く声は秋の風
あかあかと日は難面(つれなく)も秋の風
むざんやな甲(かぶと)の下のきりぎりす
終宵(よもすがら)秋風きくや裏の山
名月や北国(ほくこく)日和(びより)さだめなき
波の間や小貝にまじる萩の塵
『野ざらし紀行』からは、
野ざらしを心に風のしむ身かな
道のべの木槿は馬にくはれけり
馬に寝て残夢月遠し茶の煙
三十日月(みそか)なし千とせの杉を抱く嵐
蘭の香や蝶の翅(つばさ)にたきものす
蔦植ゑて竹四五本のあらし哉
露とくとくこころみに浮世すすがばや
曙やしら魚白き事一寸
草枕犬も時雨(しぐ)るるか夜の声
海くれて鴨の声ほのかに白し
水とりや氷(こほり)の僧の沓(くつ)の音
山路来て何やらゆかしすみれ草(ぐさ)
『鹿島紀行』からは、
月はやし梢(こずゑ)は雨を持(もち)ながら
『笈の小文』からは、
旅人と我が名よばれん初しぐれ
星崎の闇を見よとや啼く千鳥
冬の日や馬上に氷る影法師
枯芝やややかげらふの一二寸
何の木の花とはしらず匂哉
神垣(かんがき)やおもひもかけず涅槃像
猶みたし花に明け行く神の顔
雲雀より空にやすらふ峠哉
ほろほろと山吹ちるか滝の音
行く春にわかの浦にて追付きたり
蛸壺やはかなき夢を夏の月
『更科紀行』からは、
あの中に蒔絵書たし宿の月
かけはしやいのちをからむ蔦かづら
ひよろひよろと猶露けしやをみなへし
身にしみて大根からし秋の風
月影や四門四宗も只ひとつ
『嵯峨日記』からは、
嵐山藪の茂りや風の筋
ほととぎす大竹藪をもる月夜
うき我をさびしからせよかんこどり
手をうてば木魂(こだま)に明(あく)る夏の月
を選んでみた。
参考文献;
山本健吉『芭蕉・その鑑賞と批評』(新潮社)
松尾芭蕉『奥の細道 俳諧紀行文集』(Kindle版)
松尾芭蕉『幻住庵の記・嵯峨日記』(Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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