能化


天台大師は能化の主(す)、眉は八字に生(お)いわかれ、法(のり)の使(つかひ)に世に出(い)でて、殆ど佛(ほとけ)に近かりき(梁塵秘抄)、

の、

能化(のうげ・のうけ)、

は、「六道能化」で触れたように、

能く化すということ、

で、

「化」は教える、指導する、

という意味で、

我及諸子若不時出。必為所焼者。我譬能化仏、諸子譬所化衆生(法華義疏)、

と、師として、

他を教化できる者、

の意だが、主として、衆生(しゅじよう)を教化する、

仏・菩薩、

をさす(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

教化されるほう、つまり一切衆生(いっさいしゅじょう)は、

衆生世閒即所化機、智正覺世閒即能化主(華厳玄談)、

と、

所化(しょけ)、

という(大辞林)。「能化」は、転じて、

雖為本寺住山、不労所学者、不可許能化事(「御当家令条・関東真言宗古義諸法度(1609)」)、

と、

一宗派の長老・学頭、

などを称し、真言宗では一山の総主、真宗では本願寺派で学頭職をいい(精選版日本国語大辞典)、西本願寺では、門主・良如の時代に僧侶の教育機関である学寮(後に学林)が設けられ、その学長として能化職が置かれ、学生は所化(しょけ)と呼ばれたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%BD%E5%8C%96とある。

さらに派生して、

その郡や村県にちっとも学の方の材ある者をばすすめて京えのぼせて学問所の能化(ノウケ)や物をひろう知た博士先生に付て学問させたぞ(「玉塵抄(1563)」)、

と、

特にすぐれた僧。寺院、宗派の指導者、

をも指し、もっと一般化して、

能化(ノウケ)の姉女郎寄掛て聴聞あり(浮世草子「傾城禁短気(1711)」)、

と、

他をよく導く者、指導者、

をも指すに至る(仝上)。

「能」 漢字.gif



「能」 甲骨文字・殷.png

(「能」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%83%BDより)

「能」(①漢音ドウ、呉音ノウ・ノ、②漢音ダイ、呉音ナイ、慣用タイ)は、

会意兼形声。ム(イ 以)は、力を出して働くことを示す。能は「肉+かめの足+音符ム」で、かめや、くまのようにねばり強い力を備えて働くことを表す、

とあり(漢字源)、「非不能也(能ハザルニアラザルナリ)」と、「あたう」「欲物事をなしうる力や体力があってできる」「たえうる」という意味、「有能」「技能」「才能」の「琴を遣りうる力」の意味、「能弁」のやり手、達者の意などでは①の音、寒キニ能フ、というような「たえる」意では②の音、となる(仝上)。別に、

象形。熊またはそれに似た動物を象る。ある種の動物を指す漢語{能 /*nəə/}を表す字。のち仮借して「できる」を意味する漢語{能 /*nəəng/}に用いる、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%83%BD

説文解字では「肉」や「㠯」に従うと解釈されているが、甲骨文字や金文の形を見ればわかるように、これは誤った分析である、

とする(仝上)。象形説は、

象形。毛をさかだて、大きな口をあけておそいかかるけものの形にかたどり、くまの意を表す。借りて「あたう」意に用いる、

とも(角川新字源)、

象形文字です。「尾をふりあげ大きな口を開けた熊(くま)」の象形から熊の意味を表しましたが、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「ある動作をする事ができる」、「能力」を意味する「能」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji805.html

「化」 漢字.gif

(「化」 https://kakijun.jp/page/0412200.htmlより)

「化」(漢音カ、呉音ケ)は「化生」で触れたように、

左は倒れた人、右は座った人、または、左は正常に立った人、右は妙なポーズに体位を変えた人、いずれも両者を合わせて、姿を変えることを示した会意文字、

とある(漢字源)が、別に、

会意。亻(人の立ち姿)+𠤎(体をかがめた姿、又は、死体)で、人の状態が変わることを意味する、

とかhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8C%96

会意形声。人と、𠤎(クワ 人がひっくり返ったさま)とから成り、人が形を変える、ひいて「かわる」意を表す。のちに𠤎(か)が独立して、の古字とされた、

とか(角川新字源)、

指事文字です。「横から見た人の象形」と「横から見た人を点対称(反転)させた人の象形」から「人の変化・死にさま」、「かわる」を意味する「化」という漢字が成り立ちました、

とかhttps://okjiten.jp/kanji386.htmlとある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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