娑婆に須臾(しばし)も宿れるは、一乗聴くこそあはれなれ、嬉しけれ、や、人身再び受け難(がた)し、法華経に今一度、いかでか参り會はむ(梁塵秘抄)、
の、
一乗、
は、サンスクリット語、
エーカ・ヤーナeka-yāna(一つの乗り物)、
の訳語、
「一」は唯一無二の義、
「乗」は乗物、
の意、
開闡一乗法、導諸群生、令速成菩提(法華経)、
と、
乗物の舟車などにて、如来の教法、衆生を載運して、生死を去らしむる、
とあり(大言海)、乗(乗り物)は、
人々を乗せて仏教の悟りに赴かせる教え、
をたとえていったもので、
真の教えはただ一つであり、その教えによってすべてのものが等しく仏になる、
と説くことをいう(精選版日本国語大辞典・日本大百科全書)とある。「声聞」で触れたように、
悟りに至るに3種の方法、
には、
声聞乗(しょうもんじょう 仏弟子の乗り物)、
縁覚乗(えんがくじょう ひとりで覚(さと)った者の乗り物)、
菩薩乗(ぼさつじょう 大乗の求道(ぐどう)者の乗り物)、
の三つがあり、
三乗、
といい、『法華経』では、この三乗は、
一乗(仏乗ともいう)、
に導くための方便(ほうべん)にすぎず、究極的にはすべて真実なる一乗に帰す、
と説き(仝上)、
三乗方便・一乗真実、
といい、それを、
一乗の法、
といい、主として、
法華経、
をさす(仝上)。
「声聞」で触れたように、
声聞、
は、
梵語śrāvaka(シュラーヴァカ)、
の訳語、
声を聞くもの、
の意で、
釈迦の説法する声を聞いて悟る弟子、
である(精選版日本国語大辞典)のに対して、
縁覚(えんがく)、
は、
梵語pratyeka-buddhaの訳語、
で、
各自にさとった者、
の意、
独覚(どっかく)、
とも訳し、
仏の教えによらず、師なく、自ら独りで覚り、他に教えを説こうとしない孤高の聖者、
をいう(仝上・日本大百科全書)。
菩薩、
は、
サンスクリット語ボーディサットバbodhisattva、
の音訳、
菩提薩埵(ぼだいさった)、
の省略語であり、
bodhi(菩提、悟り)+sattva(薩埵、人)、
より、
悟りを求める人、
の意であり、元来は、
釈尊の成道(じょうどう)以前の修行の姿、
をさしている(仝上)とされる(「薩埵」については触れた)。つまり、部派仏教(小乗)では、
菩薩はつねに単数で示され、成仏(じょうぶつ)以前の修行中の釈尊、
だけを意味する。そして他の修行者は、
釈尊の説いた四諦(したい)などの法を修習して「阿羅漢(あらかん)」になることを目標にした(仝上)。
阿羅漢、
とは、
サンスクリット語アルハトarhatのアルハンarhanの音写語、
で、
尊敬を受けるに値する者、
の意。
究極の悟りを得て、尊敬し供養される人、
をいう。部派仏教(小乗仏教)では、
仏弟子(声聞)の到達しうる最高の位、
をさし、仏とは区別して使い、これ以上学修すべきものがないので、
無学(むがく)、
ともいう(仝上)。ただ、大乗仏教では、
個人的な解脱を目的とする者、
とみなされ、
声聞、
独覚(縁覚)、
を並べて、二乗・小乗として貶しており、
悟りに至るに3種の方法、
である、
三乗、
を、
声聞乗(しょうもんじょう 教えを聞いて初めて悟る声聞 小乗)、
縁覚乗(えんがくじょう 自ら悟るが人に教えない縁覚 中乗)、
菩薩乗(ぼさつじょう 一切衆生のために仏道を実践する菩薩 大乗)、
とし、大乗仏教では、
菩薩、
を、
修行を経た未来に仏になる者、
の意で用いている。
悟りを求め修行するとともに、他の者も悟りに到達させようと努める者、
また、仏の後継者としての、
観世音、
彌勒、
地蔵、
等々をさすようになっている(精選版日本国語大辞典)。で、大乗仏教では、「阿羅漢」も、
小乗の聖者をさし、大乗の求道者(菩薩)には及ばない、
とされた。
なお、法華経については、「法華経五の巻」で触れた。
(「乘」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%98より)
「乘(乗)」(漢音ショウ、呉音ジョウ)は、
会意文字。「人+舛(左右の足の部分)+木」で、人が両足で木の上にのぼった姿を示す。剩(ジョウ 剰 水準より上にのほける→あまり)の音符となる、
とある(漢字源)。別に、
会意。人が樹上に乗るさまを象る[字源 1]。「のる」「のぼる」を意味する漢語{乘 /*ləŋ/}を表す字、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%98)、
会意文字です(大+舛+木)。「両手両足を開いた人」の象形と「両足を開いた」象形と「木」の象形から、木にはりつけになってのせられた人を意味し、そこから、「のる」を意味する「乗」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji188.html)ある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95