2023年08月19日
降魔の相
不動明王恐ろしや、怒(いか)れる姿に劔(けん)を持ち、索(さく)を下げ、後に火焔燃え上(のぼ)るとかやな、前には悪魔寄せじとて、降魔(がま)の相(さう)(梁塵秘抄)、
の、
降魔(がま)の相(そう)、
は、
がうまの相、
の、
がうまの転、
で、
ごうまの相、
とも訓み、
第六天の魔王、成道を妨げし時も、尺尊、一指をあげて、魔を降し、龍女成仏せし時も、陁羅尼(陀羅尼 だらに)をえつつ、甚深の秘蔵を悟りて、後、正覚を成りき(鎌倉時代の歌論「野守鏡」)、
と(「第六天の魔王」は、「天魔波旬」、「陀羅尼」は「加持」で触れた)、
釈迦が悟りを開こうとした時、欲界の第六天が悪魔の姿になって行なった妨害を降伏させた、そのときの姿をいう、
とあり(デジタル大辞泉)、
釈迦八相、
のひとつである(広辞苑)。そこから転じて、広く、
悪魔を降伏する相、
の意でも使い、例えば、
不動明王が悪魔を降伏させる時のような忿怒(ふんぬ)の形相(ぎょうそう)、
にもいう(仝上)。
降魔、
とは、
悪魔(煩悩の義)を降伏すること、
とあり(大言海)、
悪魔は身心を擾乱し、善法を障礙し、勝事を破壊し、智慧の命を奪うもの、之れを類別しては、三魔、四魔、十魔等の説あるも、要するに、心内の煩悩、心外の天魔、相応じて、修行者を逼迫するものなり、故に、仏道修行者は、必ずや禅定に住し、智慧力を以て之を対治、降伏して、亦、逼ることなからしめざるべからず、佛菩薩は衆生化益の為に、亦、定慧(禅定と智慧)の力を以て、之を降伏す、不動明王所持の劔の如きは、降魔の劔と称せらる、此れ降魔の相を標したるものなり、而して、釈迦仏、成道に當りての悪魔降伏の状は、最も壮烈を極め、八相成道の一相に數へたり、
とある(仝上)ように、
釈迦八相、
は、
釈尊の生涯における八つの主要な出来事のこと、
をいい、
八相成道(じょうどう)、
八相示現、
八相作仏(さぶつ)、
ともいうが、一般に、
降兜率(ごうとそつ 兜率天から下ったこと)、
託胎(母胎に入ったこと)、
降誕(母胎から出生したこと)、
出家、
降魔(ごうま 菩提樹下で悪魔を降伏させたこと)、
成道(じょうどう 悟りを得たこと)、
転法輪(てんぽうりん 説法・教化したこと)、
入滅(にゅうめつ 涅槃に入ったこと)、
の称とされる(精選版日本国語大辞典)が、
①処天宮 釈尊となるべき菩薩が自分の生まれるべき国や家族を観察したこと、
②入胎。托胎ともいい、白象となった菩薩が摩耶夫人の右脇より母胎に宿ったこと、
③現生。誕生のことで、摩耶夫人の右脇から生まれた菩薩が、七歩あゆみ「天上天下唯我独尊」と宣言したこと、
④出家。二九歳でこの世の善を求めて出家し、愛馬カンタカに乗り城を出て、修行生活に入ったこと、
⑤降魔。覚りを得る前に訪れた悪魔を征服したこと、
⑥成道。三五歳で正覚を得て、仏陀となったこと、
⑦初転法輪。サールナートで五比丘に説法をしたこと、
⑧入滅処。入滅のことで、八〇歳でクシナガラの沙羅双樹のもとで般涅槃したこと、
としたり(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%85%AB%E7%9B%B8%E6%88%90%E9%81%93)、
①昇兜率、
②退来入胎、
③住胎中、
④出生、
⑤出家、
⑥成仏道、
⑦転法輪、
⑧般涅槃、
の八相(大乗義章)としたり(この場合、降魔がない)、八相として示される出来事には諸説あり(仝上)、
①昇兜率天、
②来下入胎、
③住胎、
④出生、
⑤童子相、
⑥娉妻相、
⑦出家相、
⑧成仏道相、
⑨転法輪相、
⑩般涅槃相、
の十相とするもの(無量寿経義疏)もある(仝上)。ただ、
八相成道、
といった場合、
特に成道を重視したものといえよう。仏はこれらを示すことで衆生を教化すると考えられている、
ということになる(仝上)。
成道(じょうどう)、
とは、
道すなわち悟りを完成する、
意で、
悟りを開いて仏と成る、
ことであるから、
成仏、
と同じ意味であり、
得仏(とくぶつ)、
成正覚(じょうしょうがく)、
ともいう(日本大百科全書)。釈尊(しゃくそん)は、
35歳のときにブッダガヤの菩提樹(ぼだいじゅ)の下で覚(さと)り(無上正等覚、無上菩提)を開いてブッダ(覚者)となった、
と伝えられ、これを中国・日本では一般に成道とよぶ(仝上)とある。
なお、
釈尊の生涯から八場面を取り上げて図像化したもの、
を、
釈迦八相図、
と呼び、そこでは、主として、
誕生、成道、初転法輪、涅槃、の四相は必ず組み合わされ、それに前後の事跡を付加して増幅する、
とある(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E9%87%88%E8%BF%A6%E5%85%AB%E7%9B%B8%E5%9B%B3)。
また、
四魔(しま)、
とは、
人心を迷わせ死に至らせる四つのもの、
で、五蘊(ごうん)を、
五蘊魔(五陰魔また陰魔)、
煩悩を、
煩悩魔(ぼんのうま)、
死そのものを、
死魔、
死を克服しようとするものを妨げるものを、
天魔(他化自在天子魔)、
と呼んだもの(精選版日本国語大辞典・大言海)とある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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