崑崙山(こんろんさん)に石も無し、玉してこそは鳥は抵(う)て、玉に馴れたる鳥なれば、驚くけしきぞ更になき(梁塵秘抄)、
の、
崑崙山、
は、
こんろんざん、
とも訓ませ、
中国古代の伝説上の山、
で、「崑崙」は、
昆侖、
とも書き、
霊魂の山、
の意で、
崑崙山(こんろんさん、クンルンシャン)、
崑崙丘(きゅう)、
崑崙虚(きょ)、
崑山、
ともいい(大言海・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B4%91%E5%B4%99・ブリタニカ国際大百科事典)、中国の古代信仰では、
神霊は聖山によって天にのぼる、
と信じられ、崑崙山は最も神聖な山で、大地の両極にあるとされた(仝上)。中国北魏代の水系に関する地理書『水経(すいけい)』(515年)註に、
山在西北、……高、萬一千里、
とあり、中国古代の地理書『山海経(せんがいきょう)』には、
崑崙……高萬仞、面有九井、以玉為檻、
とあり、その位置は、
瑶水(ようすい)という河の西南へ四百里(山海経)、
とか、
西海の南、流沙(りゅうさ)のほとりにある(大荒西経)、
とか、
貊国(はくこく)の西北にある(海内西経)、
と諸説あり、
その広さは八百里四方あり、高さは一万仞(約1万5千メートル)、
あり、
山の上に木禾(ぼっか)という穀物の仲間の木があり、その高さは五尋(ひろ)、太さは五抱えある。欄干が翡翠(ひすい)で作られた9個の井戸がある。ほかに、9個の門があり、そのうちの一つは「開明門(かいめいもん)」といい、開明獣(かいめいじゅう)が守っている。開明獣は9個の人間の頭を持った虎である。崑崙山の八方には峻厳な岩山があり、英雄である羿(げい)のような人間以外は誰も登ることはできない。また、崑崙山からはここを水源とする赤水(せきすい)、黄河(こうが)、洋水、黒水、弱水(じゃくすい)、青水という河が流れ出ている、
とある(http://flamboyant.jp/prcmini/prcplace/prcplace075/prcplace075.html)。『淮南子(えなんじ)』(紀元前2世紀)にも、
崑崙山には九重の楼閣があり、その高さはおよそ一万一千里(4千4百万キロ)もある。山の上には木禾があり、西に珠樹(しゅじゅ)、玉樹、琁樹(せんじゅ)、不死樹という木があり、東には沙棠(さとう)、琅玕(ろうかん)、南には絳樹(こうじゅ)、北には碧樹(へきじゅ)、瑶樹(ようじゅ)が生えている。四方の城壁には約1600mおきに幅3mの門が四十ある。門のそばには9つの井戸があり、玉の器が置かれている。崑崙山には天の宮殿に通じる天門があり、その中に県圃(けんぽ)、涼風(りょうふう)、樊桐(はんとう)という山があり、黄水という川がこれらの山を三回巡って水源に戻ってくる。これが丹水(たんすい)で、この水を飲めば不死になる。崑崙山には倍の高さのところに涼風山があり、これに昇ると不死になれる。さらに倍の高さのところに県圃があり、これに登ると風雨を自在に操れる神通力が手に入る。さらにこの倍のところはもはや天帝の住む上天であり、ここまで登ると神になれる、
とある(仝上)とか。
宋代の『湘山野録』には、
崑崙山産玉、麗水生金、
中国の西方に位置して玉を産し、黄河の源はこの山に発すると考えられた、
とあり(日本大百科全書)、
美麗なる玉(ぎょく)を出すを以て、名あり、崑玉と云ふ、
ともある(大言海)。後漢書・孔融傳では、
與琭玉秋霜、比質可也、
とあり、その、
人格の高尚なる、
のに準えられている(大言海)。初めは、
天上に住む天帝の下界における都、
とされ、
諸神が集り、四季の循環を促す「気」が吹渡る、
とされていたが、のちに神仙思想の強い影響から、古代中国人にとっての、
理想的な他界、
とされ、女仙の、
西王母(せいおうぼ)、
が居を構え、その水を飲めば不死になるという川がそこの周りを巡っているという、
地上の楽土、
とされた。黄帝の崑崙登山や、西周(せいしゅう)の穆(ぼく)王が、この山上に西王母を訪ねた伝説がある(日本大百科全書)。
なお、
崑崙奴(こんろんど)、
は、アフリカ系黒人に対しての呼び名であるが、伎楽の、
崑崙(くろん)面、
の名称も、そもそもは黒人のことをさした(https://dic.pixiv.net/a/%E5%B4%91%E5%B4%99%E5%B1%B1)とある。
(崑崙山脈 古くは西域の西南方に見える山脈を崑崙山といった https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B4%91%E5%B4%99%E5%B1%B1%E8%84%88より)
現在の、
崑崙山脈、
は、
中国西部の山脈。チベット高原とタリム盆地の間を東西に走る山地。全長2400㎞で、西部、中部、南部に大別され、狭義には西部崑崙をさす、
とあり(日本国語大辞典)、
クンルン山脈、
を指し、
黄河・長江の水源、
である(仝上)。
(『山海経』の西王母の挿絵 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E7%8E%8B%E6%AF%8Dより)
西王母(せいおうぼ)、
というのは、山海経では、
西方の崑崙山に住む神女、
の名で、
人面・虎歯・豹尾・蓬髪、
の(精選版日本国語大辞典)、
半人半獣、
で、
不老長寿、
をもって知られ(デジタル大辞泉)、
三青鳥が食物を運ぶ、
とある(マイペディア)が、のち神仙説の流行から仙女化し、淮南子では、
不死の薬をもった仙女、
とされ、さらに周の穆王(ぼくおう)が西征してともに瑤池で遊んだといい(列子・周穆王)、長寿を願う漢の武帝が仙桃を与えられたという伝説ができ、漢代には、
西王母信仰、
が広く行なわれた(精選版日本国語大辞典)とある。「王母」は、
祖母や女王のような聖母、
といった意味合いであり、「西王母」とは、
西方にある崑崙山上の天界を統べる母なる女王、
の尊称で、
天界にある瑶池と蟠桃園の女主人でもあり、すべての女仙を支配する最上位の女神とされ、東王父に対応する、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E7%8E%8B%E6%AF%8D)。
(西王母像(漢代の素焼き像) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E7%8E%8B%E6%AF%8Dより)
(虎もしくはライオンに乗った西王母の画像(明代) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E7%8E%8B%E6%AF%8Dより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95