2023年10月19日

情と景の格闘


正岡子規(高浜虚子編)『子規句集』を読む。

子規句集.jpg


本書は、

明治十八年~三十四年

の間の、

寒山落木(巻一~巻五)、
俳句稿(巻一~巻二)、

の七冊から、編者の高浜虚子が、

凡そ二万句足らずある中から見るものの便をはかって、二千三百六句を選んだ、

ものである。ただ、現在は、

判明している子規の俳句は二万三千を越す、

という(坪内稔典「解説」)。

個人的な好みだけで、以下、

梅雨晴やところどころに蟻の道
朝顔にわれ恙(つつが)なきあした哉
山〻は萌黄浅黄やほとゝぎす
涼しさや行燈(あんどん)消えて水の音
死はいやぞ其きさらぎの二日灸
さらさらと竹に音あり夜の雪
猫老て鼠もとらず置火燵(おきごたつ)
手をちゞめ足をちゞめて冬籠
埋火(うずみび)の夢やはかなき事許り
人もなし野中の杭(くい)の凧(いかのぼり)
故郷(ふるさと)やどちらを見ても山笑ふ
鶯の覚束なくも初音哉
雉鳴くや庭の中なる東山
白魚や椀の中にも角田川
ひらひらと風に流れて蝶一つ
蛤(はまぐり)の荷よりこぼるゝうしほ哉
くたびれを養ひかぬる暑さかな
猶熱し骨と皮とになりてさへ
つり橋に乱れて涼し雨のあし
経の声はるかにすゞし杉木立
山を出てはじめて高し雲の峰
命には何事もなし秋のくれ
木の末に遠くの花火開きけり
稲妻に人見かけたる野道哉
夕月のおもて過行(すぎゆく)しぐれ哉
大木の雲に聳ゆる枯野哉
行く人の霞(かすみ)になつてしまひけり
大桜只一もとのさかり哉
向きあふて何を二つの案山子(かがし)哉
名月の波に浮ぶや大八洲(おおやしま)
しぐるゝや雞頭黒く菊白し
冬木立五重の塔の聳えけり
春の夜のそこ行くは誰(た)そ行くは誰 そ
雉鳴くや雲裂けて山あらはるゝ
山吹の花の雫やよべの雨
横雲に夏の夜あける入江哉
世の中の重荷おろして昼寐哉
御仏(ほとけ)も扉をあけて涼みかな
夕暮の小雨に似たり水すまし
蝸牛(ででむし)や雨雲さそふ角(つの)のさき
うつむいて何を思案の百合の花
撫子(なでしこ)に蝶〻白し誰の魂(たま)
行く秋をしぐれかけたり法隆寺
月暗し一筋白き海の上
すごすごと月さし上る野分哉
二つ三つ木の実の落つる音淋し
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
道の辺や荊(いばら)がくれに野菊咲く
切売の西瓜くふなり市の月
稲の秋命拾ふて戻りけり
牛蒡肥えて鎮守の祭近よりぬ
菊の香や月夜ながらに冬に入る
大木のすつくと高し冬の門
雪ながら山紫の夕かな
湖や渺〻(びょうびょう)として鳰(にお)一つ
帰り咲く八重の桜や法隆寺
朝顔の一輪咲きし熱さかな
人すがる屋根も浮巣(うきす)のたぐひ哉
藻の花に鷺彳(たたず)んで昼永し
長き夜や千年の後を考へる
竹竿のさきに夕日の蜻蛉(とんぼ)かな
何ともな芒がもとの吾亦香(われもこう)
蠟燭の泪を流す寒さ哉
夕烏一羽おくれてしぐれけり
一筋の夕日に蟬の飛んで行
静かさに雪積りけり三四尺
めでたさも一茶位や雑煮餅
我病んで花の発句もなかりけり
琵琶一曲月は鴨居に隠れけり
蘭の花我に鄙吝(ひりん)の心あり
結びおきて結ぶの神は旅立ちぬ
初曾我(はつそが)や団十菊五左団小団
春雨や裏戸明け来る傘は誰
和歌に痩せ俳句に痩せぬ夏男
鐘の音の輪をなして来る夜長哉

と、75句を選んでみた。「鶏頭論争」だの「写生」観だのがあるようだが、ただストレートに写生した、

鶏頭の十四五本もありぬべし

という句がいいとは思えない。

撫子(なでしこ)に蝶〻白し誰の魂(たま)
琵琶一曲月は鴨居に隠れけり

など、情景と心情との葛藤というか格闘が面白い。

参考文献;
正岡子規(高浜虚子編)『子規句集』(岩波文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:27| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください