大品般若は春の水、罪障氷の解けぬれば、萬法空寂(くざく)の波立ちて、真如の岸にぞ寄せかくる(梁塵秘抄)、
の、
空寂、
は、
くうじゃく、
とも訓ませ、
万物は皆実体がなく空であるということ、
の意(広辞苑)で、また、
この世のものは有形、無形のいずれにかかわらず、その実体、自性はなく、空(くう)であるということ、
をさとって、
一切の煩悩、執着を離れた無心の境地、
をもいう(精選版日本国語大辞典)。「空」は、
この世の有形・無形の一切のものは、固定した実体がないこと、
「寂」は、
ひっそりと静かな意。煩悩や執着のない静寂なあり方が本性であること、
を意味する(新明解四字熟語辞典)。源信の『往生要集』に、
我所有三惡道、與彌陀佛萬徳、本來空寂、一體無礙(むげ)、
とある。転じて、広く、
ひっそりと寂しいさま、
の意でも使う(広辞苑)。
一庵空寂地、香火讀楞嚴(李俊民)、
とあり、「空寂」は、
寂寥、
と同義で使われている(字源)。
空寂、
を強調した、
空空寂寂(くうくうじゃくじゃく)、
という表現もあり、
執着や煩悩ぼんのうを除いた静かな心の境地、
の意であり、
空虚で静寂なさま、
の意の他、
何もない、
をメタファに、
無駄か。お前にゃ空々寂々だ(二葉亭四迷「あいびき」)、
と、
思慮や分別のないさま、
の意でも使う。
空空漠漠(くうくうばくばく)、
荒涼索漠、
四顧寥郭、
も同義語である(学研四字熟語辞典・四字熟語辞典)
「空」(漢音コウ、呉音クウ)は、「空がらくる」で触れたように、
会意兼形声。工は、尽きぬく意を含む。「穴+音符工(コウ・クウ)」で、突き抜けて穴があき、中に何もないことを示す、
とある(漢字源)。転じて、「そら」の意を表す(角川新字源)。
「寂」(漢音セキ、呉音ジャク)は、
会意兼形声。叔(シュク)は、「つるのまいた豆のかたち+小+又(手)」の会意文字で、細く小さい意を含む。寂は「宀(いえ)+音符叔」で、家の中の人声が細くちいさくなったさまを示す、
とある(漢字源)。別に、
形声。宀と、音符叔(シユク)→(セキ)とから成る。ひっそりしている、「さびしい」意を表す(角川新字源)、
形声文字です(宀+叔)。「屋根・家屋」の象形と「枝のついている豆」の象形(「豆」の意味だが、ここでは、「弔」に通じ(「弔」と同じ意味を持つようになって)、「いたみあわれむ(かわいそうに思う)」の意味)と「右手」の象形から、屋内がいたましく「さびしい」を意味する「寂」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1363.html)、
ともある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:空寂