2023年11月15日

甲乙(かんおつ)


其ふりつよからぬやうにして、聲のかすりなく、甲乙ただしく唱ものなり(梁塵秘抄口伝集巻11)、

の、

甲乙、

は、

こうおつ、

と訓ませると、

来十月、明年正月、四月節中、並甲乙日也(「小右記」和元年(1012)六月一六日)

と、

十干の甲と乙、

つまり、

きのえときのと、

の意であったり、

是以除普明国師之外、龍湫・性海・太清三大老、甲乙再住、或一月、或半月而各告退(「空華日用工夫略集(1387)」)、

と、

ものの順序、

をいい、

第一と第二、

の意であり、また、

甲乙つけがたい、

というように、

すぐれていることとおとっていること、

つまり、

優劣、
上下、

の意や、さらには、

甲乙人、

というように、

特定の物権などに無関係な第三者の総称、

として、

たれかれ、
某々、

の意や、

はや甲乙人ども乱れ入りけりと覚えて(太平記)、

と、

名をあげるまでもない者、
一般の人、

つまり、

凡下(ぼんげ)、

の意で使うが、

かんおつ、

と訓ませると、

甲乙の位のただしきも息也(「曲附次第(1423頃)」)、

と、

邦楽で高音と低音、

つまり、

甲(かん)と乙(おつ)、

の意となる。

かるめる、

つまり、邦楽で、

(法華経を讀合ふ)弁慶がかうの聲、御曹司の乙の聲、人違へて、二の巻、半巻ばかりぞ讀まれたり(義経記)、

と、

高い調子の「かる」と低い調子の「める」、

の意で、

上下、

とも当て(デジタル大辞泉)、

音階音より音が上がることまたは上げること(かる)と、下がることまたは下げること(める)、

の意で、

かりめり、
めりかり、

という言い方もする。

甲、

を、

かん、

と訓ませるのは、音便で、

夾纈(カフケチ)、法師が、和名抄(931~38年)に、加宇介知、保宇之とあれば、甲(カフ)も、夙くより、カウと発音せしこと知るべし、そのカウの、カンとなしたるなり、庚申(カウシン)を、カンシンと云ひ、強盗(ガウタウ)を、ガンダウと云ふ例にて、甲乙(カフオツ)をも、カンオツと云ひしなり、

とあり(大言海)、

かふおつ、

とも訓ませる(仝上)とある。

甲は聲の始め也、……一調子高きを、甲の音とす。乙は、聲の終り也、……三調子下がるを、乙の音とす(竹豐故事)、

とあり、この「甲(かん)」は、

甲處(かんどころ)、
甲走った聲、

という言い方に残っている。

「甲」 漢字.gif

(「甲」 https://kakijun.jp/page/0592200.htmlより)


「甲」 甲骨文字・殷.png

(「甲」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%B2より)

「甲」(漢音コウ、慣用カン、呉音キョウ)は、

多数の説があるが、いずれも憶測の域を出ず、定説は無い、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%B2

かつて金文の形を根拠に亀の甲羅と解釈する説があったが、原字は十字形であるため、これは誤った分析である。甲骨文字の形を見ればわかるように、「龜」とは全く異なる形をしている、

とある(仝上)。しかし、

象形。もと、鱗を描いた象形文字。のち、たねをとりまいた堅い殻を描いた象形文字。被せる意を含む(漢字源)、

象形。よろいの形にかたどる。「よろい」の意を表す。借りて、十干(じつかん)の第一位に用いる(角川新字源)、

象形文字です。「尾をひいた亀の甲羅」の象形から「甲羅」、「殻」を意味する「甲」という漢字が成り立ちました。(借りて、「きのえ(木の兄)(十干の第一位)」の意味も表すようになりましたhttps://okjiten.jp/kanji1653.html

等々と諸説がある。

「乙」 漢字.gif

(「乙」 https://kakijun.jp/page/0102200.htmlより)


「乙」 金文・殷.png

(「乙」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%99より)

「乙」(漢音イツ、呉音オツ・オチ)は、

指事。つかえ曲がって止まることを示す。軋(アツ 車輪で上から下へ押さえる)や乞(キツ 息がつまる)などに音符として含まれる、

とある(漢字源)が、別に、

へらとして用いた獣の骨を象る、

とか(白川静説https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%99)、

象形。草木が曲がりくねって芽生えるさまにかたどる、

とか(角川新字源)、

象形文字です。「ジグザグなもの」の象形から、物事がスムーズに進まないさま・種から出た芽が地上に出ようとして曲がりくねった状態を表し、そこから、「まがる」、「かがまる」、「きのと」を意味する「乙」という漢字が成り立ちました、

とかhttps://okjiten.jp/kanji1506.htmlあるが、十干(じつかん)の第二位に用いるうちに、原義が忘れられたhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%99ようである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

【関連する記事】
posted by Toshi at 04:43| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください