急なる音を一段にめらして、一絲と立をき、平調の時はめぐりを合はせて(梁塵秘抄口伝集11巻)、
の、
めらせして、
は、
「甲乙」で触れたように、
かるめる、
の、
める、
ではないか。つまり、
音が下がる、
意で、
かるめる、
は、邦楽で、
(法華経を讀合ふ)弁慶がかうの聲、御曹司の乙の聲、人違へて、二の巻、半巻ばかりぞ讀まれたり(義経記)、
と、
高い調子の「かる」と低い調子の「める」、
の意で、
上下、
甲乙(かんおつ)、
とも当て(デジタル大辞泉)、
音階音より音が上がることまたは上げること(かる)と、下がることまたは下げること(める)、
の意で、
かりめり、
めりかり、
という言い方もする。
平調、
は、
へいちょう、
と訓ますと、
唯美くしてゐるばかりでは余り平調(ヘイテウ)で面白くない(内田魯庵「文学者となる法」)、
と、
穏やかな調子、平常の状態、
また、
安定し落ち着いていること、
の意で使うが、
漢代には、俗楽(清商三調、相和楽など)の音階で、唐の俗楽二十八調の制定で、調名となった、
という、
中国音楽の調名の一つ、
で、日本の雅楽の、
六調子・十二律の一つ、
である、
平調、
のもとになるもの、
をいうが、また、
唐には、平調を用る。金は宝成故也(「わらんべ草(1660)」)、
と、
中国の調弦法の一つ、
で、
わが国の三味線の本調子に当たり、中国の音階名では、最低弦(一の糸)から、合(ほう)・四(すい)・六(りゅう)の調子、
の意でも使う。日本の雅楽の、
六調子・十二律の一つ、
である、
平調、
は、
ひょうじょう、
と訓ませ、
奥深かに箏の音少許聞ゆ、律に被立て平調の音なり(今昔物語)、
と、
雅楽十二律の音名の一つ。基音である壱越(いちこつ)から三番目の音。中国十二律の大簇(たいそう)、西洋音楽のホ音に相当する、
とあり、また、
箏の琴は中の細緒の堪へがたきこそ所せけれとて、ひょうてふにおし下して調べ給ふ(源氏物語)、
と、
雅楽の六調子の一つ。平調の音を主音、すなわち宮音とする調子、
とある(精選版日本国語大辞典)。
十二律については、「十二調子」(じゅうにちょうし)は、
十二律の俗称、
で、「十二律」は、『前漢志』や『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』には、
4000年前黄帝の代に、伶倫(れいりん)が命を受け昆崙山(こんろんざん)の竹でつくった、
とあるが、中国では、
黄鐘(こうしょう)を基音、
として、
黄鐘(こうしょう)を三分損一して林鐘(りんしょう)、次に益一して太簇(たいそく)、
と、以下同様にして得て、
黄鐘(こうしょう)、大呂(たいりょ)、太簇(たいそく)、夾鐘(きょうしょう)、姑洗(こせん)、仲呂(ちゅうりょ)、蕤賓(すいひん)、林鐘(りんしょう)、夷則(いそく)、南呂(なんりょ)、無射(ぶえき)、応鐘(おうしょう)、
となる。前漢の京房(けいぼう)はこれを反復して、
六十律、
南朝宋の銭楽之(せんらくし)は、
三百六十律、
を求めた(仝上)という。日本では天平七年(735)吉備真備が『楽書要録』で伝えたのち、平安時代後期より雅楽調名に基づいて、
壱越(いちこつ)、断金(たんぎん)、平調(ひょうじょう)、勝絶(しょうせつ)、下無(しもむ)、双調(そうじょう)、鳧鐘(ふしょう)、黄鐘(おうしき)、鸞鏡(らんけい)、盤渉(ばんしき)、神仙(しんせん)、上無(かみむ)、
の名称が決められた(仝上)。ただ、中国では、
標準音の絶対音高が時代によって異なるので、律名をそのまま絶対的な音名ということはできない、
ようだが、日本独自の、
十二律、
十二調子、
は、
壱越 (いちこつ)がほぼ洋楽のニ音に相当し、以下、順に半音ずつ高くなっていくので、律名は音名といってもさしつかえない、
とある(ブリタニカ国際大百科事典)。しかし、
雅楽や声明、
を除けば、この12の律名はあまり用いられず、普通は、もっと実用的な、
一本(地歌・箏曲・長唄・豊後系浄瑠璃などでは黄鐘〈おうしき〉イ音、義太夫節では壱越ニ音)、
二本(変ロ音または嬰ニ音)、
三本(ロ音またはホ音)、
という名称が使われている(仝上)。
六調子(ろくちょうし・りくちょうし)、
は、
壱越(いちこつ)調・平(ひょう)調・双調・黄鐘(おうしき)調・盤渉(ばんしき)調・太食(たいしき)調、
をいう(仝上)。
壱越(いちこつ)、
は、
十二律の基音(第1律)で、洋楽のd(ニ音)とほぼ同じ高さの音、
で、雅楽でこの音を主音とする調子を、
壱越調、
といい、日本に伝来したとき、調の主音は、
壱越(いちこつ ニ)、平調(ひようぢよう ホ)、双調(そうぢよう ト)、黄鐘(おうしき イ)、盤渉(ばんしき ロ)、
の五つであり、
壱越は唐の古律の太簇(たいそう)であるが、俗律の黄鐘(こうしよう)とも考えられたので、日本ではこれを基準音とみなし、これを宮として以下4声を順次並べて徴調の五声音程の新五声(徴・羽・宮・商・角を宮・商・角・徴・羽と呼びかえたもの)を生じた、
とある(世界大百科事典)。「五声」については、「十二調子」で触れた。
(「平」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B9%B3より)
「平」(漢音ヘイ、呉音ビョウ、慣用ヒョウ)は、
象形。浮草が水面にたいらに浮かんだ姿を描いたもの。萍(へい 浮草)の原字。また、下から上昇する息が一線の平面につかえた姿とも言う、
とある(漢字源)。借りて「ひらたい」、たいらにするの意に用いる(角川新字源)。
「調」(漢音チョウ、呉音ジョウ)は、「調楽」で触れた。
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95