諸呂・律にうつされるは、寛平の御時に催馬楽を調子定給とかや(梁塵秘抄口伝集第12)、
にある、
律呂(りつりょ)、
は、
雅楽の十二律の律の音と呂の音、
をいい、転じて、
音律(音高の相対的な関係の規定)、
楽律(楽音を音律の高低に従って並べた音列、十二律や平均律など)、
さらに、
律旋と呂旋、
すなわち、
施法(せんぽう 音の配列、主音の位置などから区別される旋律の法則、モード)、
の意で使う(精選版日本国語大辞典)が、
呂律(りょりつ)、
ともいい、訛って、
ろれつ、
とも訓む。「呂律(ろれつ)」は、
呂律(ろれつ)が回らない、
で言う、
ろれつ、
である。「呂律が回らない」は、
酒に酔いなどして言語がはっきりしないさま、
にいう(広辞苑)が、
リョリツの転、
で、
ことばの調子。物を言うときの調子、
の意とあり、「リョリツ(呂律)」が、
具体的な呂の音、律の音という音階を言っていたものが、
音階一般、
に転じ、さらに、「ろれつ」と転じて、
ことばの調子、言い方、
にまで変じた、ということらしい。
(十二律 精選版日本国語大辞典より)
(十二律 広辞苑より)
十二調子、
つまり、
十二律、
は、
中国や日本の雅楽に用いられた一二の音、
をいい、
一オクターブ間を一律(約半音)の差で一二に分けたもの、
で、一二のそれぞれの名は、中国では、
黄鐘(こうしょう)・大呂(たいりょ)・太簇(たいそう)・夾鐘(きょうしょう)・姑洗(こせん)・仲呂(ちゅうりょ)・蕤賓(すいひん)・林鐘(りんしょう)・夷則(いそく)・南呂(なんりょ)・無射(ぶえき)・応鐘(おうしょう)、
日本では、
壱越(いちこつ)・断金(たんぎん)・平調(ひょうじょう)・勝絶(しょうせつ)・下無(しもむ)・双調(そうじょう)・鳧鐘(ふしょう)・黄鐘(おうしき)・鸞鏡(らんけい)・盤渉(ばんしき)・神仙(しんせん)・上無(かみむ)、
その基音(黄鐘および壱越)は、
長さ九寸の律管が発する音、
とされた(精選版日本国語大辞典)。
「十二調子」で触れたように、日本・中国の音楽で、低音から、
宮(きゅう)・商(しょう)・角(かく)・徴(ち)・羽(う)、
の5音を、
五音(ごいん)、
と言い、また、その構成する音階をも指す(広辞苑)。五音に、
変徴(へんち 徴の低半音)・変宮(へんきゅう 宮の低半音)、
を加えた7音を、
七音(しちいん)、
または、
七声(しちせい)、
という(仝上)。西洋音楽の階名で、宮をドとすると、商はレ、角はミ、徴はソ、羽はラ、変宮はシ、変徴はファ#に相当し、
宮・商・角・変徴・徴・羽・変宮はファ・ソ・ラ・シ・ド・レ・ミに相当、
し
西洋の教会旋法のリディアの7音に対応する、
とあり(広辞苑・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E5%A3%B0)、
日本の雅楽や声明(しょうみょう)も使用する、
とする(仝上)。なお、「五声」は、
三分損益法(さんぶんそんえきほう)、
に基づいている(仝上)とある。『史記』に、
律數 九九八十一以為宮 三分去一 五十四以為徵 三分益一 七十二以為商 三分去一 四十八以為羽 三分益一 六十四以為角、
とあるが、これは、
完全5度の音程は振動比2:3で振動管の長さは2/3となる。すなわち、律管の3分の1を削除すると5度上の音ができ、加えると5度下の音ができる。前者を三分損一(去一)法、後者を三分益一法と称し、両者を交互に用いるのが三分損益法である、
とあり(日本大百科全書)、
5度上の音を次々に求めるピタゴラス定律法と同じ原理、
で、日本では、
損一の法を順八、益一の法を逆六、
といい、別名、
順八逆六の法、
と称する(仝上)とある。つまり、古代ギリシャでも古代中国でも音楽は盛んだったが、二つの異なる文化が、
周波数比が2:3である二つの音はよく調和する、
という全く同じ現象に到達していたのである(https://www.phonim.com/post/what-is-temperament)。現代では周波数が2:3であるような音は、
完全5度、
と呼ばれている(仝上)。
日本へは奈良時代にこの中国の五声が移入されたが、平安時代になると日本式の五声が生まれ、中国の五声の第五度(徴)を宮に読み替えた音階で、西洋音階のド・レ・ファ・ソ・ラに相当する。中国の五声を、
呂(りょ)、
日本式の五声を、
律(りつ)、
とよぶのが習わしとなった(仝上)。なお、日本では、
律呂、
が、音程(二つの音の高さの隔たり)の意味の他に、
音律(音の高さのこと)、
の意味や、
音階(一定の音程(音の間隔)で高さの順に配列した音の階段)、
の名称としてつかわれたりしているのでややこしい。
十二律呂、
という場合は、
十二律を六つずつに分けたもの、
をいい(世界大百科事典)、
音律の意味では、十二律の、奇数番目の六つの音律を、陽の音のとして、雅楽では、
律、
といい、
壱越(いちこつ)、平調(ひょうじょう)、下無(しもむ)、鳧鐘(ふしょう)、鸞鏡(らんけい)、神仙(しんせん)、
の、
六音を、
六律、
偶数番目の六つの音律を、陰に属する音として、
呂、
といい、
断金(たんぎん)、勝絶(しょうせつ)、双調(そうじょう)、黄鐘(おうしき)、盤渉(ばんしき)、上無(かみむ)、
の六音を、
六呂、
といい、併せて、
六律六呂、
という。その両者をあわせたものを、
十二律呂、
とよび、
律呂、
は、
その略称で、
楽律、
ともいう(日本大百科全書)。
また、旋法または音階を二分類するための用語としては、時代によって内容の規定は異なるが、現在では、
壱越調(いちこつちょう)、双調(そうぢょう)、太食調(たいしきちょう)の3調子、
が、
第一音宮から商・角・嬰角・徴(ち)・羽(う)・嬰羽・宮の順で、各音の間隔が一音・一音・半音・一音・一音・半音・一音となるもの、
で、
洋楽のソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソに当たる、
呂旋(りょせん)、
呂旋法、
また、
平調(ひょうぢょう)、黄鐘調(おうしきちょう)、盤渉調(ばんしきちょう)、
の3調子が、
第一音宮から商、嬰商、角、徴(ち)、羽(う)、嬰羽、宮の順で、各音の間隔が、一音、半音、一音、一音、一音、半音、一音となるもの、
で、洋楽のレ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・レに当たる、
律旋(りっせん)、
律旋法、
に分類されている(仝上・精選版日本国語大辞典)。この場合、
十二律の個々の音を二分類する律呂とは意味が異なる、
ので、たとえば、
壱越調は呂旋、
に属し、
壱越の音は律、
ということになる(仝上)。
「律」(漢音リツ、呉音リチ)は、
会意文字。聿(イツ)は「手の形+筆の形」の会意文字。律は「彳(おこない)+聿(ふで)」で、人間の行いの基準を、筆で箇条書きにするさまを示す。リツということばはきちんとそろえて秩序だてる意を含む、
とある(漢字源)。別に、
字源
形声。「彳」+音符「聿 /*RUT/」。「道理」「きまり」を意味する漢語{律 /*rut/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BE%8B)、
形声。彳と、音符聿(イツ、ヒツ)→(リツ)とから成る。均一にならす、ひいて、おきての意を表す(角川新字源)、
会意文字です(彳+聿)。「十字路の左半分」の象形(「道を行く」の意味)と「手で筆記用具を持つ」象形から、人が行くべき道として刻みつけられている言葉を意味し、そこから、「おきて」を意味する「律」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji966.html)、
等々ともある。
「呂」(漢音リョ、呉音ロ)は、
象形。一連に連なった背骨を描いたもの。似たものが一線上に幷意を含む。また、転じて、並んだ音階をも呂という、
とある(漢字源・角川新字源・https://okjiten.jp/kanji2079.html)が、
象形。金属のインゴッドを2つ重ねたさまを象る。ある種の金属を指す単語漢語{鑪 /*raa/}を表す字。[字源 1]
『説文解字』では背骨の形を象ると解釈されているが、これは誤った分析である、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%91%82)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95