2023年11月27日

鎮魂(たましずめ)


鎮魂、

は、

生者の肉体から離れようとする霊魂を肉体に、また、死者の場合は肉体以外のあるべき場所に戻すことにより、生者は活力を取り戻し、死者は災いをなさないようにする、

という、

日本古来の呪術、

をいう(広辞苑・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9A%E3%82%81)とあるが、特に、

鎮魂の祭、

の略ともある(仝上)。

鎮魂(たましずめ)、ちんこんさいのことなり、

とある(梁塵秘抄口伝集第14)のは、その意味である。元々、

鎮魂(ちんこん、たましずめ)、

の語は、

(み)たましずめ、

と読んで、神道において生者の魂を体に鎮める儀式、

を指すものであったhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%AE%E9%AD%82とあり、広義には、

魂振(たまふり)、

を含めて鎮魂といい、宮中で行われる鎮魂祭では、

鎮魂(たましずめ)、
魂振(たまふり)、

の二つの儀が行われている(仝上)。「魂鎮」は、職員令義解の「鎮魂祭」註に、

招離遊之運魂、鎮身體之中府、

とあるように、

魂を身体の中府に鎮めること、

であり、「魂振」は、

衰弱した魂を呪物や体の震動によって励起すること、

をいうhttps://www.miyajidake.or.jp/gokitou/shintou

鎮魂祭(ちんこんさい)、

は、

みたまふり、

または、

みたましずめ、

と訓ませ、

おほむたまふり、

ともいう(大言海)、

古代宮廷祭祀の一つ、

で、宮中で、

新嘗祭の前日夕刻、

に天皇の鎮魂を行う儀式であるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%AE%E9%AD%82%E7%A5%AD。宮中三殿に近い綾綺殿にて、

神祇官八神殿(はっしんでん)の神々と大直日神(おおなおびのかみ)の神座を設けて執行する、

とある(https://japanknowledge.com/introduction/keyword.html?i=689)。初見は、天武紀十四年(685)十一月に、

是日、為天皇招魂之(ミタマフリシキ)

とある(大言海は、「人の魂は、遊離すると信ぜられて、然り」と付記している)。かつては旧暦11月の2度目の寅の日に行われていた。

この日は太陽の活力が最も弱くなる冬至の時期であり、太陽神アマテラスの子孫であるとされる天皇の魂の活力を高めるために行われた儀式と考えられる。また、新嘗祭(または大嘗祭)という重大な祭事に臨む天皇の霊を強化する祭でもある、

とあり(仝上)、一般に、

天皇の魂を体内に安鎮せしめ、健康を祈る呪法、

と考えられている(仝上)。この神事には、

神座の前に天皇の御衣の箱、

を安置し、

御巫(みかんなぎ)・猿女(さるめ)ら神祇官の巫女たちが神楽舞をし、次に御巫が宇気槽(うきふね・うけふね)を伏せた上に立ち、琴の音に合わせて桙(ほこ)で槽を撞く。一撞きごとに神祇伯(じんぎはく)が木綿(ゆう)の糸を結ぶ所作を十回くり返す。同時に女蔵人が御衣の箱を開いて振り動かす行為もあった、

とあり(仝上)、御巫・猿女らが、神祇伯の結んだ御玉緒の糸は、

斎瓮(いわいべ)に収めて神祇官斎院の斎戸(いわいど)の神殿(祝部殿・斎部殿)に収められ、毎年十二月にそこで祭りがあった、

とある(仝上)。またこの神事の御巫らの行う、

宇気槽撞き、

神楽舞、

は、その共通要素から、『古語拾遺』(807年)に、

凡(およ)そ鎮魂の儀は、天鈿女命の遺趾(あと)なり、

とあるように、日本神話の岩戸隠れの場面において天鈿女命(あめのうずめのみこと)が槽に乗って踊ったという伝承に基づくとされ、かつては、天鈿女命の後裔である猿女君の女性が行っており、、

猿女の鎮魂、

とも呼ばれていたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%AE%E9%AD%82%E7%A5%ADとあり、天岩戸神話における、

天宇受売命の舞、

との関連が言われている(仝上)。

魂振(たまふり)、

は、

招魂(たまふり)、

とも当て(日本書紀)、

たましずめは、鎮むる方に付て云ひ、たまふりは振動(ふるひうご)かして、勢いあらしむるに云ふ(遊離せぬやうに力をつくるなり)、

とある(大言海)ように、鎮魂の儀の後、

天皇の衣を左右に10回振る魂振の儀、

が行われる。これは饒速日命が天津神より下された、

十種の神宝を用いた呪法、

に由来するとされる。平安初期の『先代旧事本紀』には、

饒速日命の子の宇摩志麻治命が十種の神宝を使って神武天皇の心身の安鎮を祈った、

との記述があり、

所謂(いはゆる)御鎮魂祭は此よりして始(おこ)れり、

としているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%AE%E9%AD%82%E7%A5%AD

神輿(みこし)を激しく揺さぶること、

や、

神社の拝殿で手を打つこと、

なども、

魂振、

の一種https://www.homemate-research-religious-building.com/useful/glossary/religious-building/2047901/と考えられるとある。

十種神宝(とくさのかんだから)、

は、『先代旧事本紀』(九世紀頃成立、『旧事紀』(くじき)あるいは『旧事本紀』(くじほんぎ)ともいう)に、

天璽瑞宝十種(あまつしるし・みずたから・とくさ)、

と称して登場する、霊力を宿した十種類の宝をいい、

沖津鏡(おきつかがみ)、
辺津鏡(へつかがみ)、
生玉(いくたま)、
死返玉(まかる・かへしのたま)、
足玉(たるたま)、
道返玉(ち・かへしのたま)、
蛇比礼(へひのひれ)、
蜂比礼(はちのひれ)、
品々物之比礼(くさぐさのもののひれ)、
八握剣(やつかのつるぎ)、

とされるhttps://dic.pixiv.net/a/%E5%8D%81%E7%A8%AE%E7%A5%9E%E5%AE%9Dらしい。

「魂」 漢字.gif


たま(魂・魄)」で触れたように、

「魂」(漢音コン、無呉音ゴン)の字は、

会意兼形声。「鬼+音符云(雲。もやもや)、

とあり、

たましい、
人の生命のもととなる、もやもやとして、決まった形のないもの、死ぬと、肉体から離れて天にのぼる、と考えられていた、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(云+鬼)。「雲が立ち上る」象形(「(雲が)めぐる」の意味)と「グロテスクな頭部を持つ人」の象形(「死者のたましい」の意味)から、休まずにめぐる「たましい」を意味する「魂」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1545.html

「鎮」 漢字.gif

(「鎮」 https://kakijun.jp/page/1830200.htmlより)

「鎮」(チン)は、

会意兼形声。眞(真)は「人+音符鼎(テイ・テン)」からなり、穴の中に人を生き埋めにしてつめること。填(テン つめる)の原字。鎮は「金+音符眞」で、欠けめなくつまった金属の重し、

とある(漢字源)。別に、

形声。「金」+音符「真 /*TIN/」。「おもり」「おさえる」を意味する漢語{鎮 /*trins/}を表す字、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%8E%AE

形声。金と、音符眞(シン)→(チン)とから成る。金属製のおもしの意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(金+真(眞))。「金属の象形とすっぽり覆うさまを表した文字と土地の神を祭る為に柱状に固めた土」の象形(「金属」の意味)と「さじの象形と鼎(かなえ)-中国の土器の象形」(「つめる」の意味)から、いっぱいに詰め込まれた金属「おもし」、「おさえ」を意味する「鎮」という漢字が成り立ちました。転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「しずめる」の意味も表すようになりました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1732.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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