葎(むぐら)
むぐらさへ若葉はやさし破レ家(いえ)(芭蕉)、
の、
むぐら、
は、
葎、
と当て、
うぐら、
もぐら、
とも訛り、
カナムグラ・ヤエムグラなど、蔦でからむ雑草の総称、
とあり、蓬(よもぎ)や浅茅(あさぢ)とともに、
貧しい家、荒廃した家の形容に使われることが多い、
とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
荒れ地や野原に繁る雑草の総称、
なので、
葎生(むぐらふ)、
というと、
いかならむ時にか妹を牟具良布(ムグラフ)のきたなき屋戸(やど)に入れいませてむ(万葉集)、
と、
葎が生い茂っていること、また、その場所、
の意で使い、
葎の門(むぐらのかど)、
というと、
訪ふ人もなき宿なれど来る春は八重葎にもさはらざりけり(紀貫之)、
と、
葎が這いまつわった門、
の意で、
荒れた家や貧しい家のさま、
の意となる(広辞苑)
葎の宿、
も同じ意味で使う(仝上)。ただ、歌語としては、「葎の門」「葎の宿」は、
葎の門に住む女、
荒廃した屋敷に美女がひっそりと隠れ住む、
というようなロマン的な場面が、『伊勢物語』、『大和物語』、『うつほ物語』等々の物語によって形成され、類型化された(日本大百科全書)とある。
茂(も)く闇(くら)き儀、
が由来とある(大言海)が、他に、
繁茂しているところから、茂らの義、ラは助辞。またクラは木闇のクレの転で、草の暗く茂っている意(日本語源=賀茂百樹)、
一株で草むらのように生い茂った状態から(https://www.asahi-net.or.jp/~uu2n-mnt/yaso/yurai/yas_yur_yaemugura.html)、
ムグリツタ(潜蔦)の義(日本語原学=林甕臣)、
モレクグリ(漏潜)の義(名言通)、
世捨て人がとじこもっている室は、この草が茂って暗いことから、ムロクラキ(室暗)の義(和句解)、
と諸説あるが、どうもはっきりしないが、その状態をいう、
一株で草むらのように生い茂った状態、
を示しているとするのが、自然な気がする。なお、万葉集で、
思ふ人来むと知りせば八重葎おほへる庭に珠敷かましを(作者不詳)、
と歌われる、
やえむぐら(八重葎)、
は、
カナムグラ(鉄葎)、
を指している(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%82%B0%E3%83%A9)とされる。ヤエムグラ属は、
アカネ科、
に属し、カナムグラは、
アサ科カラハナソウ属、
とされる。「鉄葎」の、
カナは、鐵にて、此蔓、堅き墻(かきね)をも穿ち生ふると云ふ、
とあり(大言海)、
強靭な蔓を鉄に例え、「葎」は草が繁茂して絡み合った様を表すように、繁茂した本種の叢は強靭に絡み合っており、切ったり引き剥がしたりすることは困難である、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%82%B0%E3%83%A9)。「八重葎」は、
彌重葎、
の意で、
茎は直立、斜上し、またはつる性になり、4稜がある。葉は節ごとに対生する本来の2個の葉と、2~8個からなる葉と同形の托葉からなり、4個~多数個の葉が輪生しているように見える。花序は散集花序になり、茎先や葉腋につけて、ふつう多数の花をつける、
ためかと思われる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%82%A8%E3%83%A0%E3%82%B0%E3%83%A9%E5%B1%9E)。
『万葉集』から「八重(やへ)葎」「葎生(ふ)」などと用いられているが、平安時代以後は、歌語としては「八重葎」に固定して、
八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり(恵慶(えぎょう)法師)、
などと詠まれた(日本大百科全書)。
「葎」(漢音リツ、呉音リチ)は、
会意兼形声。「艸+音符律(ならぶ)」、
とあり(漢字源)、つるくさの名である。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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