水鶏(くいな)啼と人のいへばや佐屋泊(さやどまり)(芭蕉)、
の、
水鶏、
は、
秧鶏、
とも当て、
ツル目クイナ科の鳥の総称、
で、
クイナ・ヒクイナなどの類、
をいい、
世界に約130種、鳥類の中で絶滅種が最も多く、1600年以降、世界の島嶼(とうしょ)に生息するクイナのうち14種以上が絶滅した、
とある(広辞苑)。詩歌に詠まれるのは、夏に飛来する、
緋水鶏、
で、和歌以来、もっぱら鳴き声が詠まれ、
人が戸をたたく音、
に比されて、
たたく、
と表現される(仝上・雲英末雄・佐藤勝明訳註『芭蕉全句集』)。
ヒクイナ、
は、
緋水鶏、
緋秧鶏、
と当て、
ナツクイナ、
とも呼ばれ(精選版日本国語大辞典)、
ツル目 クイナ科 ヒメクイナ属、
に分類される(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%8A)。古くは単に、
水鶏(くひな)、
と呼ばれ、その独特の鳴き声は古くから、
たたくとも誰かくひなの暮れぬるに山路を深く尋ねては来む(更級日記)、
と、
水鶏たたく、
と言いならわされてきた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%8A)。その連想から
「く(来)」といいかけて用いる、
など、古くから詩歌にとりあげられてきた(日本国語大辞典)。
全長20センチ程、上面の羽衣は褐色や暗緑褐色、喉の羽衣は白や汚白色、胸部や体側面の羽衣は赤褐色、腹部の羽衣は汚白色で、淡褐色の縞模様が入る、
とあり(仝上)、湿原、河川、水田などに生息する。
「くいな」は、
水雉、
とも当て、
ツル目 クイナ科 クイナ属に分類され(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%8A)、全長30センチ程度、体形はシギに似る。くちばしは黄色、背面が褐色で黒斑があり、顔は灰鼠色、腹には顕著な白色横斑がある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。秋、北方から渡来、湿原、湖沼、水辺の竹やぶ、水田などに生息する(仝上)。また、
薮の中にいることが多いので姿を見ることは少ない鳥、
ともある(https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1515.html)。
くいな、
の和名は、
ヒクイナの鳴き声(「クヒ」と「な」く)に由来(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%8A)、
鳴きはじめは、クヒクヒと聞ゆと云ふ、ナは鳴くの語根(ひひ鳴き、ひひな。馬塞(うませき)、うませ)(大言海)、
と、鳴き声説があるが、「ひくいな」を「くいな」と呼んでいたとすると、
「クッ クッ」あるいは「クリュッ クリュッ」と聞こえる声、
を出しているのは、
くいな、
の方で(https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1515.html)、
ヒクイナ、
は、
「コン コン コン」あるいは「クォン クォン クォン ‥‥コココ‥」と聞こえ、次第に早口になります、
とある(https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1527.html)。この声が、夕方から夜にかけてよく聞くことが出来るので、夜間の訪問者を意識して、
戸を叩く、
と言ったと見られる(仝上)。とすると、「ひくいな」と「くいな」を区別していなかったとしても、鳴き声からは、「くいな」の鳴き声を「たたく」といったのとは矛盾してくる。他には、
キクナ(來鳴)の義(日本釈名)、
クヒナ(食菜)の義(名語記)、
や、
クヒナキ(食鳴)の義、夜中に田に鳴く蛙を食いながら啼くから(名言通)、
クヒア(喰蛙)の義(言元梯)、
がある(日本国語大辞典)。たしかに、本草和名には、
鼃鳥、久比奈(鼃(蛙)を食ふと云ふ)、
とあるのだが。
(クイナ 広辞苑より)
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95