2023年11月30日

とぼそ


此宿は水鶏(くいな)もしらぬ扉(とぼそ)かな(芭蕉)、

の、

とぼそ、

は、

枢、
扃、

と当て、

ト(戸)とホゾ(臍)との複合、

で(岩波古語辞典)、

ボソは、ホゾの清濁の倒語、

とあり(大言海)、

開き戸の上下の端に設けた回転軸である「とまら(枢)」を差し込むために、梁(はり)と敷居とにあける穴、

をいい(学研全訳古語辞典)、俗に、

とまら、

ともいう(広辞苑)。

楣(まぐさ 目草、窓や出入り口など、開口部のすぐ上に取り付けられた横材)と蹴放し(けはなし 門・戸口の扉の下にあって内外を仕切る、溝のない敷居)とに穿ちたる孔、

をいい(大言海)、

扉の軸元框(かまち)の上下に突出せる部分をトマラ(戸牡)と云ひ、それを戸臍に差し込みて樞(くるる)となす、

とある(大言海)。そこから転じて、広く、

扉、
または、
戸、

の称としてもつかう。和名類聚抄(平安中期)には、

樞、度保曾、俗云、度萬良、門戸之樞(くるる)也、

とあるが、天治字鏡(平安中期)には、

扃、扉、止保曾、

とある。「樞(くるる)」は、

回転(くるくる)の約(きらきら、きらら。きりきり、きりり)、クルル木と云ふが成語なるべし、

とある、

戸を回転させる機(しかけ)、

をいい、

くりり、
くろろ、
くる、

ともいう(仝上)。ややこしいのは、通常、

さる、

という、

戸の桟、

をもいう(仝上)。

とぼそ.jpg

(とぼそ https://togetter.com/li/1460596より)

「樞」の字は、

梁(ハリ)と敷居とにあけた小さい穴、

の意の、

とぼそ、

に当てるが、その穴に差し込む、

開き戸の上下にある突き出た部分、

つまり、

とまら(「と」は戸、「まら」は男根の意)、

にも、

樞、

を当てる(仝上・デジタル大辞泉)。その、

扉の端の上下につけた突起(とまら)をかまちの穴(とぼそ)にさし込んで開閉させるための装置、

を、

くるる、

というが、これにも、上述したように、

樞、

を当て(仝上)、

樞木(くるるぎ)、

ともいい、その扉を、

樞戸(くるるど)、

という。

「樞」 漢字.gif

(「樞」 https://kakijun.jp/page/9EE2200.htmlより)

「枢」 漢字.gif


「樞(枢)」(慣用スウ、漢音シュ、呉音ス)は、

会意兼形声。區は、曲がった囲いとそれに入り組んだ三つのものからなる会意文字。こまごまと入り組んださまを現わす。樞は「木+音符區」で、細かく細工をして穴にはめ込んだとびらの回転軸をあらわす、

とある(漢字源)。つまり、

形声。木と、音符區(ク)→(シユ)とから成る。「とぼそ」の意を表す。とぼそがとびらの開閉に重要なところから、転じて、かなめの意に用いる(角川新字源)、

会意兼形声文字です(木+区(區))。「大地を覆う木」の象形と「四角な物入れの象形と品(器物)の象形」(「区切って囲う」の意味だが、ここでは、「クルッとまわる」の意味)から、「とぼそ・くるる(開き戸を開閉する軸となる所)」を意味する「枢」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1676.html

である。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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