此宿は水鶏(くいな)もしらぬ扉(とぼそ)かな(芭蕉)、
の、
とぼそ、
は、
枢、
扃、
と当て、
ト(戸)とホゾ(臍)との複合、
で(岩波古語辞典)、
ボソは、ホゾの清濁の倒語、
とあり(大言海)、
開き戸の上下の端に設けた回転軸である「とまら(枢)」を差し込むために、梁(はり)と敷居とにあける穴、
をいい(学研全訳古語辞典)、俗に、
とまら、
ともいう(広辞苑)。
楣(まぐさ 目草、窓や出入り口など、開口部のすぐ上に取り付けられた横材)と蹴放し(けはなし 門・戸口の扉の下にあって内外を仕切る、溝のない敷居)とに穿ちたる孔、
をいい(大言海)、
扉の軸元框(かまち)の上下に突出せる部分をトマラ(戸牡)と云ひ、それを戸臍に差し込みて樞(くるる)となす、
とある(大言海)。そこから転じて、広く、
扉、
または、
戸、
の称としてもつかう。和名類聚抄(平安中期)には、
樞、度保曾、俗云、度萬良、門戸之樞(くるる)也、
とあるが、天治字鏡(平安中期)には、
扃、扉、止保曾、
とある。「樞(くるる)」は、
回転(くるくる)の約(きらきら、きらら。きりきり、きりり)、クルル木と云ふが成語なるべし、
とある、
戸を回転させる機(しかけ)、
をいい、
くりり、
くろろ、
くる、
ともいう(仝上)。ややこしいのは、通常、
さる、
という、
戸の桟、
をもいう(仝上)。
(とぼそ https://togetter.com/li/1460596より)
「樞」の字は、
梁(ハリ)と敷居とにあけた小さい穴、
の意の、
とぼそ、
に当てるが、その穴に差し込む、
開き戸の上下にある突き出た部分、
つまり、
とまら(「と」は戸、「まら」は男根の意)、
にも、
樞、
を当てる(仝上・デジタル大辞泉)。その、
扉の端の上下につけた突起(とまら)をかまちの穴(とぼそ)にさし込んで開閉させるための装置、
を、
くるる、
というが、これにも、上述したように、
樞、
を当て(仝上)、
樞木(くるるぎ)、
ともいい、その扉を、
樞戸(くるるど)、
という。
「樞(枢)」(慣用スウ、漢音シュ、呉音ス)は、
会意兼形声。區は、曲がった囲いとそれに入り組んだ三つのものからなる会意文字。こまごまと入り組んださまを現わす。樞は「木+音符區」で、細かく細工をして穴にはめ込んだとびらの回転軸をあらわす、
とある(漢字源)。つまり、
形声。木と、音符區(ク)→(シユ)とから成る。「とぼそ」の意を表す。とぼそがとびらの開閉に重要なところから、転じて、かなめの意に用いる(角川新字源)、
会意兼形声文字です(木+区(區))。「大地を覆う木」の象形と「四角な物入れの象形と品(器物)の象形」(「区切って囲う」の意味だが、ここでは、「クルッとまわる」の意味)から、「とぼそ・くるる(開き戸を開閉する軸となる所)」を意味する「枢」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1676.html)、
である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95