2023年12月04日

重陽


はやくさけ九日(くにち)もちかしきくのはな(芭蕉)、

の、

九日(くにち)、

は、

九日の節句、

つまり、五節句の一つである、

九月九日の重陽(ちょうよう)の節句、

である。中国では、一族で丘に登る、

登高、

という行楽の行事がある(広辞苑)。

都城重九後一日宴賞、號小重陽(輦下歳時記)、

と、

重九(ちょうきゅう)、

ともいう(字源)。

歳往月來、忽復九月九日、九為陽數、而日月竝應、故曰重陽(魏文帝、輿鐘繇書)、

と、

陽數である、

九が重なる、

意である。これを吉日として、

茱萸(しゅゆ)を身に着け、菊酒を飲む習俗、

が漢代には定着し、五代以後は朝廷での飲宴の席で、

賦詩、

が行なわれた(精選版日本国語大辞典)。「茱萸」(しゅゆ)は、

ごしゅゆ(呉茱萸)(または、「山茱萸(さんしゅゆ)」)の略、

とされ(精選版日本国語大辞典)、

呉茱萸、

は、古名、

からはじかみ(漢椒)、

結子五、六十顆、……状似山椒、而出于呉地、故名呉茱萸(本草一家言)、

とあり、中国の原産の、

ミカン科の落葉小高木、

で、古くから日本でも栽培。高さ約3メートル。茎・葉に軟毛を密生。葉は羽状複葉、対生。雌雄異株。初夏、緑白色の小花をつける。紫赤色の果実は香気と辛味があり、生薬として漢方で健胃・利尿・駆風・鎮痛剤に用いる、

とある(広辞苑)。

ゴシュユ.jpg


からはじかみ、
川薑(かわはじかみ)、
いたちき、
にせごしゅゆ、

ともいう(精選版日本国語大辞典)

重陽宴、題云、観群臣佩茱萸(曹植‐浮萍篇)、

と、昔中国で、この日、

人々の髪に茱萸を挿んで邪気を払った、

あるいは、昔、重陽節句に、

呉茱萸の実を入れた赤い袋(茱萸嚢(しゅゆのう)、ぐみぶくろ)を邪気を払うために腕や柱などに懸けた、

ので、

茱萸節、

ともいうように、

茱萸、

を節物とした(大言海)。重陽節の由来は、梁の呉均(ごきん)著『続斉諧記』の、

後漢の有名な方士費長房は弟子の桓景(かんけい)にいった。9月9日、きっとお前の家では災いが生じる。家の者たちに茱萸を入れた袋をさげさせ、高いところに登り(登高)、菊酒を飲めば、この禍は避けることができる、と。桓景はその言葉に従って家族とともに登高し、夕方、家に帰ると、鶏や牛などが身代りに死んでいた、

との記事の逸話をもってするとある(世界大百科事典)。この逸話に、重陽節の。

登高、
茱萸、
菊酒、

の三要素が挙げられている。重陽節は、遅くとも3世紀前半の魏のころと考えられる(仝上)とある。呉茱萸は、重陽節ごろ、芳烈な赤い実が熟し、その一房を髪にさすと、邪気を避け、寒さよけになるという。その実を浮かべた茱萸酒は、菊の花を浮かべた略式の菊酒とともに、唐・宋時代、愛飲された(仝上)とある。呉自牧の『夢粱録』には、

陽九の厄(本来、世界の終末を意味する陰陽家の語)を消す、

とある(仝上)という。

こうした行事が日本にも伝わり、『日本書紀』武天皇十四年(685)九月甲辰朔壬子条に、

天皇宴于旧宮安殿之庭、是日、皇太子以下、至于忍壁皇子、賜布各有差、

とあるのが初見で、嵯峨天皇のときには、神泉苑に文人を召して詩を作り、宴が行われ、淳和天皇のときから紫宸殿で行われた(世界大百科事典)。

菊は霊薬といわれ、延寿の効があると信じられ、

重陽の宴(えん)、

では、

杯に菊花を浮かべた酒(菊酒)を酌みかわし、長寿を祝い、群臣に詩をつくらせた、

とある(精選版日本国語大辞典)。菊花を浸した酒を飲むことで、長命を祝ったので、

菊の節句、

ともいう。

詩宴、

は漢詩文を賦するのが本来であるが、和歌の例も「古今集」に見られ、時代が下るにつれ、菊の着せ綿や菊合わせなどが加わり、菊の節供としての色合いが強調されるようになり(精選版日本国語大辞典)、江戸幕府は、これを最も重視したため、江戸時代には五節供の一つとして最も盛んで、民間でも菊酒を飲み、栗飯(くりめし)をたいた(マイペディア)。

重陽.bmp

(重陽の節会(大和耕作絵抄) 精選版日本国語大辞典より)

山茱萸(さんしゅゆ)、

は、日本へは享保年間(一七一六‐三六)に薬用植物として渡来した、

とある(精選版日本国語大辞典)。

ミズキ科の落葉小高木。幹は高さ三~五メートルになり、樹皮はうろこ状にはげ落ちる。葉は対生し短柄をもち、長卵形で先はとがり、裏面は白緑色で葉脈には褐色の細毛を密生する。早春、葉に先だって、小枝の先に四枚の苞葉に包まれた小さな黄色の四弁花を球状に多数密集してつける、

という(仝上)。果期は秋で、

果実は核果(石果)で、長さ1.2~2 cmの長楕円形で、10月中旬~11月に赤く熟し、グミの果実に似ている、生食はできないが、味は甘く、酸味と渋みがある、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%A6。ただ、和名の、

サンシュユ、

は、輸入された当時の学識者が、山茱萸の漢名をそのまま音読したもので、これが現在まで標準和名として伝わっているhttps://www.miyakanken.co.jp/column1/1060ものの、

山茱萸、

という名は、

薬用部分(果実)を指す漢方の生薬名、

なので、中国にもこのような名前の植物は存在しない(仝上)とある。

サンシュユ.jpg



サンシュユの実.jpg

(サンシュユの実 仝上)

なお、

菊花ひらく時則重陽といへるこゝろにより、かつは展重陽のためしなきにしもあらねば、なを秋菊を詠じて人をすゝめられける事になりぬ(芭蕉、真蹟 扇面・許六 宛書 簡)、

とある、

展重陽、

とは、

国忌のために宮中の重陽の宴を延期し、十月に残月の宴として行うこと、

とある(雲英末雄・佐藤勝明訳註『芭蕉全句集』)。

七夕」で触れたように、五節句は、

人日(じんじつ)(正月7日)、
上巳(じょうし)(3月3日)、
端午(たんご)(5月5日)、
七夕(しちせき)(7月7日)、
重陽(ちょうよう)(9月9日)、

である。正月七日の、七種粥、三月三日の、曲水の宴、上巳の日の、天児白酒については触れた。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:重陽 呉茱萸
posted by Toshi at 04:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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