御廟(ごへう)年経て忍(しのぶ)は何をしのぶ草(芭蕉)、
の、
しのぶ草、
は、
山中の樹木や岩肌に生える常緑のシダ類、
を指し、和歌以来、
「偲ぶ」と掛詞、
にして詠まれることが多い(松尾芭蕉(雲英末雄・佐藤勝明訳註)『芭蕉全句集』)とある。
忍草(しのぶぐさ・しのびぐさ)、
は、
シノブ・ノキシノブなどのシダ植物、
を指すが、上述したように、
千鳥(ちどり)鳴くその佐保川(さほがは)に岩に生(お)ふる菅(すが)の根(ね)採(と)りて偲(しの)ふ草祓(はら)へてましを(万葉集)、
しのぶぐさ摘みおきたりけるなるべし(源氏物語)、
などと、
偲(しの)ぶ種(ぐさ)、
の意にかけて、
思い出のよすが、
の意で使い(学研全訳古語辞典)、また、
しのぶ(忍)、
ともいい(「しのぶ草」が「しのぶ(忍)」の異名ともある)、
シダの古名のひとつ、
でもあり、この名を持つシダは多く、代表的なものに、
ノキシノブ・タチシノブ・ホラシノブ、
などがある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8E%E3%83%96・精選版日本国語大辞典)。ただ、「しのぶ草」は、
わが宿の忍ぶ草おふる板間あらみ降る春雨のもりやしぬなむ(紀貫之)、
と、
軒忍の古名、
ともされる(松尾芭蕉(雲英末雄・佐藤勝明訳註)『芭蕉全句集』・精選版日本国語大辞典)。なお、上代は、
しのふくさ、
と清音であった(仝上)。
(ノキシノブ デジタル大辞泉より)
みちのくのしのぶもぢずりたれ故に乱れそめにしわれならなくに(源融)、
の、
しのぶもじずり、
は、
忍草の葉を布帛に摺りつけて、捩(もじ)れ乱れたような模様を染め出したもの、
とも、
ねじれ乱れたような文様のある石(もじずりいし)に布をあてて摺りこんで染めたもの、
ともいう(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。
延喜時代より、信夫郡の産物として、陸奥絹の一種の乱れ模様を捺したるを貢ぎしたり、
とあり(大言海)、平安末期の歌学書「和歌童蒙抄」には、
戻摺とは、陸奥の信夫郡にて摺り出せる布なり、打ちちがへて、乱りがはしく摺れり、
とあり、平安末期の歌学書「袖中抄」(しゅうちゅうしょう)には、著者顕昭の注に、
陸奥の信夫郡に、もぢずりとて髪を乱るやうに摺りたるを、しのぶずりと云ふ、
とある。
なお、
しのぶ草、
は、
わがやどは甍(いらか)しだ草生ひたれど恋忘れ草見るにいまだ生ひず(柿本人麻呂)、
と、
「忘れ草」の別名、
としても使われる(学研全訳古語辞典・https://manyuraku.exblog.jp/24830383/)。「忘れ草」は、
萱草、
の意で、和名類聚抄(931~38年)に、
萱草、一名、忘憂、和須禮久佐、俗云、如環藻二音、
とあり、
かんぞう(くわんざう)、
かぞう、
けんぞう、
とも訓むが、
わすれぐさ、
とも訓ませる。
花を一日だけ開く、
ために、
忘れ草、
と呼ばれるらしい。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:忍草 忍草(しのぶぐさ・しのびぐさ)